空想男子アディクション【ars】 (ページ20)

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「そしたら、この辺りで...」

翔さんが呟きながら『翔90歳・A89歳』って書いた下に『毒入りスープにて安らかに永眠』と書き込む。

「よし。90歳までは健康に気を付けて元気に生きよう」
「はい、お願いします」

そう言えば、貴方はプロポーズの時にも『健康に気を付けて元気に生きよう』って言ってくれたね。

相葉くんには『今週の目標？』って言われたけど、私にとっては甘い甘い言葉に聴こえた。

その後も、翔さんは『翔35歳・課長になる』とか『A32歳・美人奥様読者モデルになる』とか目標だったり、冗談なんかも書き込んで

何故か『太輔29歳・結婚』なんて私の弟の未来まで勝手に書き込んで「そう言えば、太輔くんって彼女できた？」「彼女が居ない人にありがちな『今は仕事が彼女だから』ってベタなコト言ってました」って雑談。

それから『雅紀36歳・独立して店を出す』『ニノ37歳・編集長になる』『智くん35歳・海外で個展を開く』『潤33歳・王子に磨きがかかる』って、お友達の事も何か現実味のある年齢で今後の未来を勝手に決めて書き込む。

「あー！疲れたー！」

架空の未来設計して遊んでただけの翔さんが、パタンと後ろに倒れた。

出来上がった設計図を見てから、目を閉じてる翔さんを見下ろす。

「ねぇ、翔さん」
「んー？」
「あの可愛い幼稚園には、いつ頃通えそうですか...？」

翔さんの大きな目がパチンと開いた。

「どこにも書いてないから...」
「あー...それは、ほら...赤ちゃんってコウノトリの都合とかもあるでしょ？」
「え？フフッ、コウノトリ？」

私の髪を、男らしい指がスルリと梳いて行く。

「でも、早く俺らのトコに飛んで来て欲しいね。待ち遠しい」

優しい優しい声。

きっと、コウノトリにも届いたんじゃないかな。

いつになるか分からないけど、その日が来る事を思い浮かべるだけで胸が詰まった。

「呼ぶ？」
「え？」
「コウノトリ」
「呼ぶ...って？」

ニヤリと、急に色が射した目をした翔さんが

私の首の後ろに手を添えてグイっと自分に引き寄せる。

ふっくらした女の子みたいな唇が、私の唇を喰む。

私はゆっくり、目を閉じて

貴方は私を導いた。

段ボールだらけの部屋で見る夢は

淡く、色濃く、どこか空想のようで

だけどそれは、貴方が私に与えてくれた素敵な現実だったんだ。

・・・END『空想リアリティ』・・・