178# それぞれの夢 ページ28
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帰りの船の中、アンダーとしてのライブを終えた同期たちとの語らいは後にして、私は医務室へ急いだ。衣装を脱いでベッドで眠るたかみなさんの傍らには彼方さん、そして、優子さんとゆきりんさんもいる。
コンコン、と主張するようなノック。優子さんとがちりと目が合ったから軽く頭を下げて入室した。……才加さんはああ言うけれど、彼女の顔は険しい。それでも私は怖気ずに優子さんの前に立ち、謝罪の言葉と一緒に深く頭を下げた。
彼方さんが息を飲んだ気がした。ゆきりんさんは動かない。対して優子さんは丸椅子から立ち上がる。そのときギィと音が鳴っていた。ああ無理、頭をあげられない。そう思ったら「頭上げなよ」なんて言われる。フラグ感がすごい。
「なんで謝るの」
「たかみなさんが、熱を出していることを知っていたのに黙っていたから……です」
優子さんは落ち着いた口調で淡々としていた。それが逆に怖い。
今の襲名で一番怒らせると厄介なのはこの人なんじゃないか？ 責任感があって、みんなを引っ張っていく力もある。正に、たかみなさんに代わるリーダー的存在。
「Aは悪くないよ。もし悪いなら、あたしだって同じ。……だって、あたしも気づいていたからさ」
「……え」
「優子さん……？」
ゆきりんさんは初耳だ、というように優子さんを見やる。彼女は続けた。RIVERでたかみなさんが倒れそうになったときがあっただろう。そのとき手を握ったとき、熱かった。
最初は踊っているからだと思った。しかしそれにしても、だったのだ。たかみなさんが目で訴えてきたらしい。
「踊りたい、歌いたい。ここにいたい、ってね」
「…………」
今度はみんなでたかみなさんを見る。彼女は瞳を閉じて、寝息も規則正しい。頭の包帯も巻き直されている。きっと、ゆきりんさんがしたんだろう。
安静にしている彼女を見て、ホッと安堵の息がもれた。
「……A、このままちょっといい？ あんたに伝えておきたいことがあるんだよね」
「えっ」
「あはは、今から注意はしないから身構えないでよ。ゆきりん、たかみなのこと見てて。あたしらちょっと席外すから〜」
目をぱちくりさせる私の手を引っ張る優子さん。切れた緊張の糸が、再び繋がった気がした。医務室を出る前……最後に見えたのは、彼方さんの心配そうな表情だった。
優子さんは振り返らない。明かりも人気もない通路まで来て、ようやく立ち止まる。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年10月21日 14時
