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この光景、久しぶりだ。目の前の彼女は怒っていて、間に入ろうとしたあの人は焦った顔をしている。でも私の頭の中は意外と冷静だった。
言葉にされるよりこっちの方がマシ。ていうか何も感じないに近い。私、心根は何も変わっていないんだな。
「恵さんって、私のお母さんに似てるかも」
「……何の話、」
「言うことを聞けないと平手打ちして黙らせる。余計なことをするなと言って私を丸め込もうとする」
「「っ！？」」
恵さんと佐江さんは私から距離をとる。二人とも、目を開いていて。さっきとは違う視線が私に刺さるのを感じた。
あーあ、私どうしちゃったんだろう。恵さんに「嫌い」と言われてからなんかおかしい。いちいち余計なことを言ってしまう。
「今の、誰にも言わないでくださいね。たかみなさんだけは色々あって知ってるんですけど」
「……うん、分かった。約束するよ」
返事をしたのは佐江さん。恵さんは口を結んで無言になってしまった。はあ、こうなるから無闇に話さない方がいいのに。やらかした。完全にミスリード。自制できないなんて私らしくない。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。別に話をすりかえるつもりはないし、話を続ける気もないですから。
恵さんは私が気に入らないのもあって「研究生なんかとつるもうとしない方がいい」と言った。……のかもしれない。
「恵さん、佐江さん。怒らせる言い方はわざとですよ」
「……わざと？」
「はい。それと、アンダー制が導入されても研究生が襲名と同じステージに立つ機会はそう無いでしょう。でも近くに行くことはできる。それは私が証明しました」
もし。もし恵さんがこだわるのが、ステージや襲名ではなくて
けれど私も、貴重な外部の仕事だ。譲れない。いくら先輩でもヒントはあげられない。でも後輩にここまで言われて何もしないならそれまで。佐江さんには悪いけれども。
「さて、そろそろレッスンルーム行かなきゃ。彼方さんもさすがに看過しないだろうなぁ」
「……A、」
「？」
「ボクは先輩たちみたいにフォローなんてしないから」
「え」
思わず目をぱちくり。
恵さんも練習に行くの？ いや疑問持つのおかしいけど。彼女は退室する前に立ち止まると、くるりと振り返り、ビシッと私を指差した。
「ボク、キミのこと大っ嫌い」
低い声で吐き捨てると、今度こそ行ってしまった。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年10月21日 14時
