094# 未練 ページ44
▼Kanata
「ねえ、お姉」
握手会の会場から秋葉星に帰還した、その夜のこと。夕食、入浴と済ませて、楚方がわたしと美森の寮の部屋に来るのもいつものパターンになっていた。
でも今夜は、ちょっと落ち込んでいるというか。ついさっきまで77期の他の子たちといつも通り話していたと思うのに。美森も気づいたらしく、わたしを一瞥する。
「あのね、聞いてほしいことがあるの」
「うん？」
「今日の握手会でね、そなたのファンだって最初に握手に来てくれた子がいたんだけど……」
楚方の話に、二人で耳を傾けた。楚方が言うにその子はAの実の妹らしい。名前は燈さん。
DESとの戦闘のさなか、逃げ遅れたのかAがDESの無人機から庇う。最終的には楚方とツーマンセルでトドメをさした。でも………
「お話はね、難しくてそなたにはよく分からなかったの。
「楚方……」
「……そのとき、Aはどんな顔をしていましたの？」
「るーりんは……ちょっと悲しそうだった。あ、あとね『本当の私』や『ちゃんと見て』って。言ったとき怒っているみたいでやっぱり怖かった」
………
………………
楚方から聞いた話に、わたしはなかなか寝付けずにいた。ていうかAに妹がいるとかも。何も聞いたことなかったな。あの子、自分のこととかあまり話さないし。
お洒落に敏感でよく買い物に行く。好きな食べ物もそう。この間はキララが生まれた。あとは襲名メンバーと共通点がそれなりにあって……。
「美森、起きてる？」
「………はい」
「わたしたちさ、Aのこと……寮生活で目に見えることしか知らなかったんだね」
今まで言う機会がなかった。というより、元から言う気が無いんだろう。家族の問題……特に姉妹の仲違いは、わたしも似たようなことがあったから分かるかもしれない。
まあ、あれはわたしが一方的に突っ張っていたから全く同じとは言えないけれど。他人に口出されたくない、少なからずそんな思いはあるだろう。
可能性の域だけど楚方には口止めをした。今日までのことを考えたら、第三者が広めるのは良い気がしないと思ったから。
「あの笑顔、素敵でしたのに……」
「うん……」
わたしたちは、Aが表に出さないところを思わぬ形で知ってしまった。これからどうしようか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
