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「たかみなさん、佐江さんが探してましたよ。トイレ行ったまま戻ってこないって」
「……うっ、ぅうううう！ ウチ、用足しに来たんだったあ！！」
ありゃ、忘れてたの？ 逆にすごいな。限界超えたとトイレの中で叫んでいる。ここの壁反響するからあまり大きな声出さない方がいいと思う。
さて……と。私は、悩んだ顔でトイレの鏡に映る自らを見つめる織音の名前を呼んだ。彼女にずっと言いたかったことがある。凪沙や友歌もいたら、智恵理同様に誤解されそうだったから心の中に留めていた。
「織音はさ、今の自分に【指原莉乃】を襲名できる実力も覚悟もあると思ってる？」
「そんなこと………研究生になったばかりのわたしなんか、さしこさんには何も及ばないよ」
「だよね。よく分かってるじゃん」
口角を少し上げる。けれど、織音は私の言葉の意味を理解していないようだ。困惑が伝わってくる。え、分かりにくかった？
たかみなさんの声が聞こえたからヒントのつもりだったんだけど……。答えを教えるのは得策じゃないだろう。たかみなさんも、そのつもりで織音に訊いたと思うし。
「アンチに言われてから笑顔が抜け落ちて、怯えて、ダンス中も上の空。さしこには似ても似つかない」
「っ！」
「ここにいることは黙っておいてあげる。けど適当に戻ってきて。織音がいないと練習にならない。……あと、たかみなさんは聞き耳立てるのやめてください」
左から二番目のドアが中から開く前にトイレを出た。通路の壁には佐江さんが寄りかかっている。ｱｯ
そういえば別の方向のトイレを出てから彼女に会って、一緒に行動していたんだった。それで声が聞こえるからって私が先に様子を見てくるって言って……。
「すみません。すっかり忘れてました」
「そう言われると逆に清々しいよ」
たかみなさんも見つかったので私はこれで。ぺこりとお辞儀をしてレッスン室へ小走りで向かおうとしたら「ちょっと待って」と呼び止められた。
明らかに留守にし過ぎ。先生が戻ってきていたらアウトだ。真琴たち誤魔化しといてくれてないかな……。そう思いながら、佐江さんの方をまた振り向く。
「Aはアンチを酷いと思わないの？」
「エゴサしたらそんなのいくらでも出てくるでしょう。いちいち傷ついていたらキリありません。というか私は、"瑠璃川A"をよく見てくれることに感謝すらしてます」
失礼します。……と、今度こそ。この場を後にした。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
