1ー1 ページ1
.
水の滴る音がする。
それを絞りきって
綺麗な橙の髪を退かした後にタオルを交換すれば、時計の進む音と荒い呼吸だけが部屋を支配した。
「(首領へ、まだまだ絶対安静ですよ、と)」
携帯から顔を上げる
見てわかる様に苦しそうな顔と、火照った頬。
______中原幹部が風邪をひいた。
「(真逆あの幹部がなあ…)」
敵の異能かも知れないが。
長期任務から帰ってきた途端にぶっ倒れ、更には高熱という条件付き。
手の空いた補佐の私がやむを得ず中原幹部のご自宅に居るわけなのだが____
マンションの一室でひとり「ふう」と息を吐いた
だって罪悪感。
いつも頼もしい背中を向けて、私達の力なんて必要ないくらいの強さであっという間に敵を圧倒する。
そんな仕事でしか見ていない横顔をこうして眺めているのは
───きっと彼女さんはお綺麗なんでしょうなあ
本当は私の役目じゃない事は判っている。
「(そろそろ行かなきゃかな)」
一通りの対策を終えて虚しく立ち上がった
ら、
「え、」
「……ン、」
突然の引力
ぐいっと、私のスーツをちょこんと引いたのは中原幹部だった。
「えっと、幹部?お目覚めですか?」
「…だ………、」
「え?なんて…」
熱に魘される幹部を覗きこんで
「____まだ帰るなよ、」
慌ててベッドに向き治ってそう云うと、熱気に浮かぶ青い双眼とバチりとぶつかった。
それはなんだか懇願するような、いつもの真剣な瞳とはまた違くて
「まだ…此処に…いろ、一人にすンな」
鋭く敵を睨み殺す様な瞳___そんなの微塵も感じられない少し蕩けた瞳。
熱っぽくて吐息混じりの声。
近づけた私の耳元に、息がかかった
「ああああ、の、か、幹部」
「頼むから」
「___ッ、か、幹部ってば!」
全くの別人みたく茹だった怠そうな声で、そのまま首に手を回された。寝惚けているのか熱だからなのか、「ひんやりして気持ちイイ」、なんて細い指が首に触れる
「_____中原幹部!」
「A」
途端に、名前を呼ばれた。そのいつもの声にドキリと鼓動を止め、息を潜めて耳を傾けさせられる
「俺の命令、聞けるよな?」
言わずもがなだ。
へ、と職業病で身体が勝手に動く。だって私は貴方の補佐ですよ、
聞けない訳が____
「こンなんで騒いでちゃァ彼女にはまだまだだな」
「…………、か、!?」
今なんて?
____熱ッてのは都合がいいンだぜ?
なあんて、耳を疑って前を見た時には、幹部は心底愉しそうに口元に弧を描いていた。
268人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ましろ(プロフ) - こんばんは、夜分遅くにコメント失礼させていただきます。小説を読み返そうと思い作者様のページに素晴らしい作品を見つけてしまいました。最高です。今後とも楽しみに更新待っております……! (2018年4月5日 2時) (レス) id: 44c5cd76d2 (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - くるみさん» 返信担当どんぐりです。楽しんで頂けて何よりです。本作は双黒の短編集ですので、良ければ中也さんのお話を読み返して頂けたらと思います。どのお話でも恰好良い双黒が見られるよう精一杯頑張りますね。ありがとうございました! (2018年4月1日 16時) (レス) id: f67c16c67e (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ASさん» コメント担当高澤です。回ってきました笑 実は私も面子と現状に未だ驚いております…!立て続けのありがたいお言葉…おふたりにもしっかり届いていると思います!お好みの双黒を届けられる様じっくりゆっくり頑張っていきますね!応援コメントありがとうございました! (2018年4月1日 16時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
ピロウ(プロフ) - らすくさん» コメント返信ピロウが担当させて頂きます!そんなお言葉が頂けてとても嬉しいです…、素晴らしすぎるお二方との合作は緊張するものでもありますが、少しでも読者様に楽しんで頂けますよう精一杯頑張ります!暖かなコメントありがとうございました! (2018年4月1日 16時) (レス) id: aafbc19e8e (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - 黒瀬のんさん» コメント返信どんぐりが担当します。嬉しすぎるお言葉にありがたいばかりで返す言葉が見つかりません…。もれなく三人とも人間です(笑)が、三人で頭を捻り合って作品を最高のものにするべく頑張りますね!ありがとうございました! (2018年3月31日 23時) (レス) id: f67c16c67e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ