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Aside
お母さんが、ソファに座ってレースを編んでいる。
糸と針だけで生み出されたその模様は繊細で美しく、光に透けたそれはまるで宝石の様だった。
『綺麗……』
『Aもやってみる？』
私が頷くとお母さんは私の指に糸を通してくれた。
『針の持ち方はこう。そう、そうやってまず最初は針に糸を回して向こうの糸を引きぬくの。それから………』
時間をかけてお母さんに教えてもらいながら、なんとか短いレースが完成した。あまり上手とは言えない作品だったかもしれなかったけど、私は満足だった。
『上手じゃない。綺麗に出来てる』
お母さんもそう笑いながら褒めてくれた。
『…………お母さんの縫い目は、こんなに解けちゃってるのにね』
『………え…？』
服の袖から覗くお母さんの腕に、全身に、レースの模様が浮かび上がる。それは今にも解けそうなほど緩んでいるのが見てわかった。レースの隙間からぽろぽろと花が零れ落ちる。
『A………、』
私の名前を呼びながら、お母さんが口から色とりどりの花びらを吐き出す。
『ひｯ…………』
私に向かってお母さんの右腕が伸びる。怖くなってその手を振り払うと。
ボ ト リ、
それは、呆気無く床に落ちた。
それから
それから、お母さんの継ぎ目がどんどん解けて、中から真っ赤な(血の様な)真っ白な(骨の様な)薄桃色の(内臓の様な)花が、が溢れて。花、花花がおかあさんの身体から花が溢れて集めようとしてもうまく拾えなくて、その間にもお母さんの縫い目は解けて(お母さんの身体が解けて)地面に落下していって何時のまにか私の手首は血に染まっていて。
地面に落ちたお母さんの腕を見ると、そこには銀の鋏が握り締められていて、私の手首から滴り落ちた血がレースを赤に染めた。
いつの間にか辺りには雪が降り積もっていて、だんだんと辺りを白に染めてゆく。
花びらが、鋏が、レースが、お母さんが、雪に埋もれて姿を消してゆく。
『お母、さん…………』
今にも雪に埋もれそうだった、かつてお母さんだった右腕に手を伸ばし、そっと抱きしめる。ふと自分の手首を見るとそこはもう傷は塞がっていて、かわりにレースの模様があしらわれていた。
抱きしめた右腕はこの雪に埋もれた世界でも何故か温かくて、
このぬくもりをいつまでも抱きしめていたいと、そう願った。
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
