【募集企画】サークルコードは774 怪異【御厨峠の的屋】

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:218 hit

上様の子が比較的平和気味だったのに対し、割と敵意と理不尽性が高い怪異です。

「おいでませしんせん」

【名称】
御厨峠の的屋(ミクリヤトウゲノテキヤ)

【怪異の登場する噂話】
噂話の入手経路：T尾山バイパス沿いのPAで休憩していたトラック運転手の男性

以下、実際の証言を記す。

「ニイちゃん、アンタ良いバイク乗ってんな。
此処らでツーリングってえと、これから『御厨峠』に一発トばしに行くって所か？
水を差すようでなんだが、悪いことは言わねえ。やめとけよ。
今からの時間帯じゃあ彼処は危険だ、元々妙な噂だって立ってるってのに……

ん？　ニイちゃん、噂と聞いて顔色が変わったが……ははあ、さてはミーハーだな？
ガッハッハ！　気にすんな気にすんな！　俺も若い頃はそうだったからな。

で、なんだったか……そうだ、『御厨峠の的屋』の話だったな。

『的屋』ってのは、祭りやら何やらで露店を出してる連中のことだ。
ほら、此処のパーキングエリアでもよく屋台でモノを売ってるだろ？
簡単に言っちまえばそれも的屋だ、まあ少なくともこの話ではそういった認識で問題ねえ。

『御厨峠の的屋』ってのは、その名の通り『御厨峠』で噂されてるある露天商のことなのさ。
俺たち運送業は勿論、此処いらのバイパスを通る連中なら、知ってる奴もいるかもってくらいだな。
この的屋の噂ってのが、なんとまあ奇妙なもんでな……

ーーー

ある男が友人と連れ立って御厨峠にツーリングに訪れていた。
男の友人は小腹が空いていたということもあり、男に対し近くのパーキングエリアにでも寄って腹ごしらえしようと話し合っていた。
しかしそんな時だった。
丁度峠を下り切ろうとした手前で、道端に一つ、露店が見えた。
こんな場所で露店を開くなんて余程物好きな的屋だなと思った男だったが、友人が「そこで食事をしないか」と掛け合ってきた。
男はあまり気乗りしなかったそうだが、友人の誘いという事もあり大人しく屋台に寄ることにした。

二人は乗ってきたバイクを炉端に止め、そして露店の前へ足を進めた。
その際に男はエンジンを止めるのに手間取ってしまい、少し遅れて友人の後を追った。
男達は念の為用心しながら露店を観察したが、垂れ幕には『おいでませしんせんいちめいさま』と書かれているばかりで、何の店なのかも分からない。
恐らく売り物が置かれているであろう棚は全て空で、全くもって本当に露店として機能しているのか怪しい。
しかも肝心の的屋の姿が見えない。
もうこれは不法投棄された露店の型だけだろうと踏んで二人はバイクに戻ろうとした。

一歩足を踏み出した、その瞬間。
不意に友人の方がピタリと動きを止めた。
どうかしたのかと男が声を掛けると、友人は『先に戻ってくれ』と告げてくる。
男は釈然としなかったが、用でも足すのだろうと楽観的に考えて二つ返事で頷いた。

それから男は一人でバイクへ戻ったが、しかしどうしたことか。
いつまで経っても、友人の方が戻ってこない。
もう日暮れも近い。
ただでさえ勾配の激しい峠だ、夜となっては野生動物の飛び出しなど対応し難い危険も増える。
男は痺れを切らして、友人と別れた所まで戻っていったそうだ。

すると、友人は『そこ』に居た。
無人の屋台。
風に揺れる垂れ幕の隙間から、弛緩しきった体を『商品』のようにだらりと横たえたその姿。
明らかに異常だった。
不気味で不条理な光景に圧倒されながらもなんとか男は近寄ろうとする。
その時だった。

しゃがれた老父の声で、はっきりとこう聞こえたそうだ。

「さあさしんせんめしあがれ」

当然、周囲に人影などない。
男は脱力し、腰を抜かした。
遠退く意識の中で、男は狂ったような笑い声を聞きながら、友人の周囲に立つ『何か』を見たそうだ。
有象無象の異形のように見えたそれは、友人に向けてぽっかりと『口』を開けていたんだと。

その後、意識を取り戻した男が起き上がるとそこは何もない峠の側の草葉生い茂る場所。
露店なんて何もない、野っ原だったそうだ。
友人がどうなったか？　さあねえ。
ただ男が起き上がったその場所に『何もなかった』というのが、答えじゃないかね。

ーーー

これが、俺たちが知っている『御厨峠の的屋』の噂さ。

ま、俺は若いのが夜中に無理をしないよう、日が暮れる前に峠を下るよう促す戒めの話だと思ってるがな。
実際にそんな不気味な話があっちゃあ敵わん。

ニイちゃんだってそう思うだろう？　だって顔、真っ青だぞ」

【怪異の外見】
「御厨峠の的屋」は、一見して廃棄されたように感じる古めかしい木製の屋台である。
朽ちた赤い垂れ幕に白い文字で「おいでませしんせん ◯めいさま」と書かれており、空白部分は怪異に接近した人数により変動する。
屋台の上には何の商品も置かれておらず、屋台の主である的屋の姿も見られない。
ただし、接近した対象が怪異の特性に振れた場合に限り、付随する怪異と思しき謎の異形の存在を確認するらしい。

付随する怪異(以下、『異形』と称す)についての詳細は以下の通りである。

異形の姿はその名が冠す通り、この世の既存の生物と合致するにはあまりに外れたものである。
この異形の存在は観測者によって姿が変動するようであるが、皆一様に共通してその姿は黒いものであり、目にすると力が抜けるようだとうわ言のように言葉にしたことから、異形は自在に姿を変動させることができるものであるか、または複数の個体が存在するものであると考えられる。

【怪異の特性】
本怪異は夕暮れ刻に御厨峠を下る空腹の人間が存在する場合にのみ姿を現すとされる。

空腹の人間は本怪異に対し「食事をこの場所で取ってしまおう」という半強制的な意識を植えられ、移動を止め屋台へと近付かせられる。
仮に空腹の人間とそうでない人間の複数人で訪れていた場合、空腹の人間のみがやけにこの場所で食事を取るという行為に固執する傾向が出る。

屋台に近づいた場合、空腹の人間は屋台の上の『商品棚』もとい『テーブル』状になっている部分に対し横たわりたいという欲求が非常に顕著になる。
この状態の人間は他者に見られることを嫌い、多様な手段を用いて自分のみが屋台の側にいるという状況を作り出そうとする。

晴れて一人となった対象は屋台の上に横たわることとなり、この状態になると怪異に付随する異形が現れることになる。
異形は横たわった対象を食し、その後屋台と共に消失する。

【怪異の対処法】
本怪異の特徴として、特性が発動する対象が「空腹である」ことが条件となる。
故に峠を下る際に空腹であることを避け、また、怪異が現れる夕暮れ時を避けることが何よりの予防策となる。

但し、どうしてもその状況が避けられないという場合には代替手段が存在する。

旧来、『ひだる神』として知られる怪異に対する対策が本怪異に対しても有効であるということが本調査で明らかとなった。
掌に『米』の字を書き、口に含み吞み下す動作を行う。
これにより、その場凌ぎではあるが一時的に怪異からの干渉を抑えることが可能であるとされる。
また、この行為は同行者が己の掌に書き動作を行わせることでも効力を発揮することが確認されている。

【怪異の背景】
本怪異の出現地帯となっている御厨峠について関連性のありそうな民間伝承を探ったところ、このような記述が見つかった。

ーーー

《T尾山の天狗男》
1980年代後半から2000年代前半にかけて、T尾山付近のH市の住人の間では『T尾山の天狗男』と呼ばれる奇人の存在が周知されていた。
夕暮れ時、人気のない山道を登っていると、不意にぶつぶつと男の声が聞こえてくる。
声のする方を探ると、ボロボロの社に向かって手を合わせ、供物を捧げる男がいる。
毎日毎日、同じ場所で、同じ時間に。
ただそれだけの存在なのだが、廃れきった社の前という事もあり、不気味な存在として語り継がれていた。
但し、2000年代後半に入るとピタリとその噂は止まったという。

ーーー

さて、調査の結果、この『T尾山の天狗男』というのは実在した男の異称であることが判明した。男の名は『飛野永(トビノヒサシ)』と言い、T尾山の麓で自給自足の生活を営んでいる農家であった。

飛野は大層信心深く、己の畑で取れた作物を『神饌(しんせん)』として毎日土着神である◯◯(名称箇所は喪失、恐らく既に信仰は廃れているものと思われる)に対し捧げていたという。
その様子を揶揄した若者が『T尾山』に昔から伝わる『天狗伝説』に則り付けた名こそ、『T尾山の天狗男』として派生したものと考えられる。

此処まではまだあくまで自分の意思で神に供物を捧げる善良な市民が哀れ噂の発信源になってしまったというだけの話だ。
しかし問題は、この飛野という男が自ら命を絶っており、その生を終えた場所こそ、今回発見された怪異の発生場所であるという点にある。

何故彼は死んだのか。
恐らくその原因となるであろう記録をH市が発行している地方紙のアーカイブに発見した。

T尾山付近の土着神を祀る社……『T尾山の天狗男』が崇拝していた例の社が荒らされ、崩落していたのである。

犯人は麓で彷徨いていたホームレスであり、従来生活の拠点としていた廃屋が取り壊されたという事がきっかけとなって急場凌ぎで雨避けの木材を『拝借』しようとしたところ、運悪く老朽化していた社そのものが崩れ去ってしまったという事であった。
また、本ホームレスは空腹を満たす為、本来供物として捧げられる筈であった野菜などにも手を出していたということも記されており、「神の祟りでもあるのではないか」などと一時期オカルト系の雑誌で取り上げられていた。

この事件が発生した頃合いから、丁度『T尾山の天狗男』の噂が途絶えている。

飛野の遺体が発見されたのもまた、同じく噂が途絶えたのと同時期である。
この関連性を踏まえた上で、私は『飛野=T尾山の天狗男』であるという仮説を立てた。

本怪異と『T尾山の天狗男』とを繋ぐのは「しんせん」という言葉だ。
飛野は毎日神に対し「神饌」を捧げるという一種の狂信的な習慣を行い続けていた。
今回の『御厨峠の的屋』もまた、「しんせん」という文字を垂れ幕に記している。
もし、「しんせん」が「神饌」であるとしたら？
飛野はその死後も尚、妄執に囚われ、そして己の信仰を冒涜した人間に対し、『己の身を神饌として捧げる』行為を繰り返しているのではないだろうか。

【備考】
本怪異の出自となった噂であるが、この噂が発生した時期に峠で失踪した男性についての記録が残っている。

男性は当時20歳、友人とツーリングに訪れていた最中に行方不明となっている。
友人は当時錯乱状態で発見され、その後病院に搬送されたものの命に別状はなく、予後経過を見た後解放されたという。
噂との関連性は、不明である。

【感想】
本人が取り乱した部分もあり、以下は付き添いのメンバーにより記録された事情聴取の一部である。

「大丈夫かい、無理をして書いても良いレポートは仕上がらないだろう」
「うるせぇ！　俺は書かねぇといけねぇんだよ！　」
「どうして其処まで固執する。後は私が……」
「だって、アイツは……あのクソ野郎に……許さねぇ、くそっ。
潰す、絶対に潰す……オカルトなんざ……。」

以下、本人の発言が整合性を失った為未記載。
延々と「アイツが」と第三者の存在を繰り返し呟いていた為、今後の動向には注意されたし。

【レポート作成者】
乙野貞音

ーーー

【他の参加者の作品でのキャラクター使用の可否】
ご自由にどうぞ。

【製作者】
乱数

ホムペを作る｜感想を書く
 他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って！｜面白い！→ )