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*
「めんどくさ」
『仕方ないよ』
いっちの席の前の椅子に腰かける｡
そのまま椅子ごと後ろを向くと
だるそうに日誌を開く彼と目があった｡
『いっち』
「…なに」
『字かわいいね』
「なに今更」
オレンジ色の夕日の射す放課後の教室には
日直である私といっちのふたりきり｡
途中書きの日誌にシャーペンを走らせる彼｡
時間割とか欠席者は私が書いたから
いっちは残った感想を書いてる｡
「16年も一緒にいんのに」
『ふとそう思って』
「ふぅん…」
興味なさそうにこちょこちょ小さな字を
感想欄に書いていく｡カラ松とは正反対の字｡
字は人を表すって何かで聞いたけど
彼を見る限りほんとなのかも知れない｡
「あと黒板消すのと戸締りと…」
『そんな面倒くさそうにしないの』
「してないし」
嘘つけ｡
マスクの下で唇尖らせて､めんどって
小さく言ったの私知ってるんだから｡
いっちとふたりで私は嬉しいのに
いっちはあんまり嬉しくないのかな｡
そりゃ今まで飽きるほど一緒にいるけど｡
『髪の毛ぼさぼさ』
「寝起きのアンタよりはマシ」
『それは昔の話でしょ､今は違うもん』
ぴょんぴょこ跳ねた髪を指先で撫でると
んん……と小さく唸るも怒られなかった｡
どうやら日誌をさっさと書き終えたいみたい｡
『制服長袖じゃん､暑くないの?』
「べつに」
『熱中症とか気を付けてよ』
「…アンタもね」
そういう何気ない彼のひとことに
どうにもきゅんっとしちゃうんだから
きっともう私は末期だ｡手遅れなんだ｡
『ねぇ､いっちっち』
「今日はいっぱい喋んね」
『だっていっちしか居ないんだもん』
「はいはいそうですか」
『いっちとお話しするの好きだし』
「あ､そう」
あ､いっち照れてる｡
ぼさぼさ頭をがしがし掻いて
下向いてた視線をさらに下げる彼｡
耳が赤いのは真っ赤な夕日に
照らされてるからじゃなくて
そういうことだと思っておく｡
『いっちは楽しくない?』
「…べつに」
『ならよし』
「はぁ」
溜め息を吐く彼を､ふふふと笑えば
なに笑ってんのと頭を撫でられた｡
髪がぼさぼさになってくのが分かる｡
あの､不意打ちは､ちょっと､マズい｡
『ちょ…びっくりしたじゃん､はは』
「ぼさぼさ」
『こらそこ笑わない！』
「ひひっ」
不気味な笑いと共に､また彼の手が
私の頭に触れてちょちょっと髪を
気休め程度だけど直してくれた｡
あぁ､顔があつい｡
「伸びたね､あたま」
『頭？！』
「ウソ､髪」
『まったくもう』
「うわっ」
くつくつ笑う彼の頭を雑にかき撫でて
立ち上がり､窓をすべて全開にすると
運動部の騒がしい声が耳に入って抜けた｡
ぶわぁっと入ってきた涼しい風は
私のスカートと伸ばした髪と揺らす｡
後ろでばさばさっとプリントの飛んだ音｡
「あーめっちゃ飛んだ」
『ほんとじゃん』
振り返れば教卓に置いてあったプリントが
ばさばさと宙を舞っていて床を白く染める｡
立ち上がったいっちとそれを拾えば
とある1枚で中指をすぱっと切った｡
じゅわり､鋭い痛みに血が滲む｡
『っぁ』
「切った?」
『…どの指でしょーか』
「んなの見れば分かる」
切った中指を見詰めて､浅いと呟くと
いっちは私の手を掴んでそのままぐいぐい
私を引っ張り教室から出て水道まで連れてく｡
冷たい水道水でじゃばじゃば血を流した｡
「ドジ」
『ごもっともです』
「もっと気を付けなよ」
『…うん』
濡れた手をハンカチで拭いてると
制服の胸ポケットから生徒手帳をとり
さらにそのなかから絆創膏を取り出す彼｡
「貼るよ」
『…いっち女子力』
「傷口広げようか」
『すみませんでした』
ぺたり､巻かれた絆創膏には猫ちゃんが｡
かわいいと言いたくなる衝動を抑えて
ありがと､と笑いを堪えた笑顔で言った｡
「はやくプリント集めるよ」
『うん』
いつの間にか抜かされた背｡
背伸びしないと頭に手は届かない｡
たくましくなった背中に着いてって
さっきより涼しくなった教室に入った｡
「もう切らないでよ」
『いっちの絆創膏使いきるかもね』
「…これ以上心配させんのやめて」
『やだ一松くんイケメン』
ほんとに､心臓に悪いからやめて｡
集めたプリントを揃えて教卓に戻す｡
いっちが日誌を書きに椅子に戻る間に
私はすることもなく黒板消しを取った｡
『黒板消しとくね』
「上の方届かないじゃん」
『いっちにお仕事残しておいてあげてるの』
「はいはいアリガトウゴザイマス」
取り合えず届くとこだけ消しておいた｡
これも終わったとなると私は暇人で
あと窓閉めくらいしかすることないけど
蒸し暑いから窓はまだ閉めたくない｡
いっちの方に寄ってって日誌をのぞく｡
『いっち』
「なに」
『感想いっぱい書いてるの?』
「もう書くことないんだけど」
『2行書いたならいいんじゃない』
「でも7行ぜんぶ書きたい」
『真面目ちゃんだな〜』
私は一緒にいたいからいいけど｡
『ん?』
彼の消しゴムに黒の線がちらつく｡
消しゴムに好きな人の名前を書いて
使いきると叶うってのが流行ったな｡
もうそれかなり昔のことだと思うけど｡
『?消しゴムなんか書いてあるの』
「えっあっ､ちょっ」
ひょいっとそれを取るといっちは
焦ったように私へ手を伸ばした｡
隠されたらもっと気になっちゃうでしょ｡
「返して､っほら」
『そう言われると気になるよね』
だって好きなんだもん気になる｡
いっちから逃げつつ消しゴムを見る｡
ケースから消しゴムを引き抜くと同時に
ドンッ！と耳のすぐ横で音がした｡
『え､ぇっ』
「それだぁめ…返して､はやく」
『う…うぅ』
目の前にいっち｡後ろにドア｡
お互いの吐息が交じるほど近い距離に
頭のなかが消しゴムみたく真っ白になった｡
『ど…どーぞ』
「ん､ありがと」
逃げ場がないため仕方なく彼に返す｡
ちらりと見た消しゴムは白くて
黒の線はただの汚れだったらしい｡
残念に思う反面ほっとする私もいた｡
『い､いっち放れるべし』
「そんな反応されるとねぇ」
『セクハラだよ』
「消しゴム取るほーが悪いでしょ」
目が見れない｡顔が熱い｡溶けちゃいそう｡
さっきまで聞こえてた運動部の大きな声が
ぜんぶ消えたかのように聞こえなくなった｡
代わりに心臓の音が耳元で響く｡
『…いっちは好きな子いないの』
「ひひっ､どうでしょうねぇ」
『もしかして男？！』
「そうかもね」
『えぇ〜』
「アンタが気にすることじゃないよ」
ぽんぽんっと優しく頭を撫でて
座ってた椅子に戻るいっち｡
『…つまんないの』
「すみませんねぇゴミクズで」
『ねーいっち帰りパピコ奢ってー』
「葡萄ならいいよ」
『えー珈琲のがいい』
「ふひっ､わがまま」
ほんとは､
彼の持つ消しゴムのケースの内側に
私の名前が書いてあったんだけど
まだ､この時の私はそれを知らない｡
…
*幼馴染みいっちと両片想い*
ちょこちゃん
誕生日おめでとうございました！
遅くなっちゃってごめんね( ´;ω;` )
精一杯書いたので受け取ってください｡
いつも仲良くしてくれてありがとう！
素敵な1年をお過ごしくださいね｡
黒糖団子
…
「めんどくさ」
『仕方ないよ』
いっちの席の前の椅子に腰かける｡
そのまま椅子ごと後ろを向くと
だるそうに日誌を開く彼と目があった｡
『いっち』
「…なに」
『字かわいいね』
「なに今更」
オレンジ色の夕日の射す放課後の教室には
日直である私といっちのふたりきり｡
途中書きの日誌にシャーペンを走らせる彼｡
時間割とか欠席者は私が書いたから
いっちは残った感想を書いてる｡
「16年も一緒にいんのに」
『ふとそう思って』
「ふぅん…」
興味なさそうにこちょこちょ小さな字を
感想欄に書いていく｡カラ松とは正反対の字｡
字は人を表すって何かで聞いたけど
彼を見る限りほんとなのかも知れない｡
「あと黒板消すのと戸締りと…」
『そんな面倒くさそうにしないの』
「してないし」
嘘つけ｡
マスクの下で唇尖らせて､めんどって
小さく言ったの私知ってるんだから｡
いっちとふたりで私は嬉しいのに
いっちはあんまり嬉しくないのかな｡
そりゃ今まで飽きるほど一緒にいるけど｡
『髪の毛ぼさぼさ』
「寝起きのアンタよりはマシ」
『それは昔の話でしょ､今は違うもん』
ぴょんぴょこ跳ねた髪を指先で撫でると
んん……と小さく唸るも怒られなかった｡
どうやら日誌をさっさと書き終えたいみたい｡
『制服長袖じゃん､暑くないの?』
「べつに」
『熱中症とか気を付けてよ』
「…アンタもね」
そういう何気ない彼のひとことに
どうにもきゅんっとしちゃうんだから
きっともう私は末期だ｡手遅れなんだ｡
『ねぇ､いっちっち』
「今日はいっぱい喋んね」
『だっていっちしか居ないんだもん』
「はいはいそうですか」
『いっちとお話しするの好きだし』
「あ､そう」
あ､いっち照れてる｡
ぼさぼさ頭をがしがし掻いて
下向いてた視線をさらに下げる彼｡
耳が赤いのは真っ赤な夕日に
照らされてるからじゃなくて
そういうことだと思っておく｡
『いっちは楽しくない?』
「…べつに」
『ならよし』
「はぁ」
溜め息を吐く彼を､ふふふと笑えば
なに笑ってんのと頭を撫でられた｡
髪がぼさぼさになってくのが分かる｡
あの､不意打ちは､ちょっと､マズい｡
『ちょ…びっくりしたじゃん､はは』
「ぼさぼさ」
『こらそこ笑わない！』
「ひひっ」
不気味な笑いと共に､また彼の手が
私の頭に触れてちょちょっと髪を
気休め程度だけど直してくれた｡
あぁ､顔があつい｡
「伸びたね､あたま」
『頭？！』
「ウソ､髪」
『まったくもう』
「うわっ」
くつくつ笑う彼の頭を雑にかき撫でて
立ち上がり､窓をすべて全開にすると
運動部の騒がしい声が耳に入って抜けた｡
ぶわぁっと入ってきた涼しい風は
私のスカートと伸ばした髪と揺らす｡
後ろでばさばさっとプリントの飛んだ音｡
「あーめっちゃ飛んだ」
『ほんとじゃん』
振り返れば教卓に置いてあったプリントが
ばさばさと宙を舞っていて床を白く染める｡
立ち上がったいっちとそれを拾えば
とある1枚で中指をすぱっと切った｡
じゅわり､鋭い痛みに血が滲む｡
『っぁ』
「切った?」
『…どの指でしょーか』
「んなの見れば分かる」
切った中指を見詰めて､浅いと呟くと
いっちは私の手を掴んでそのままぐいぐい
私を引っ張り教室から出て水道まで連れてく｡
冷たい水道水でじゃばじゃば血を流した｡
「ドジ」
『ごもっともです』
「もっと気を付けなよ」
『…うん』
濡れた手をハンカチで拭いてると
制服の胸ポケットから生徒手帳をとり
さらにそのなかから絆創膏を取り出す彼｡
「貼るよ」
『…いっち女子力』
「傷口広げようか」
『すみませんでした』
ぺたり､巻かれた絆創膏には猫ちゃんが｡
かわいいと言いたくなる衝動を抑えて
ありがと､と笑いを堪えた笑顔で言った｡
「はやくプリント集めるよ」
『うん』
いつの間にか抜かされた背｡
背伸びしないと頭に手は届かない｡
たくましくなった背中に着いてって
さっきより涼しくなった教室に入った｡
「もう切らないでよ」
『いっちの絆創膏使いきるかもね』
「…これ以上心配させんのやめて」
『やだ一松くんイケメン』
ほんとに､心臓に悪いからやめて｡
集めたプリントを揃えて教卓に戻す｡
いっちが日誌を書きに椅子に戻る間に
私はすることもなく黒板消しを取った｡
『黒板消しとくね』
「上の方届かないじゃん」
『いっちにお仕事残しておいてあげてるの』
「はいはいアリガトウゴザイマス」
取り合えず届くとこだけ消しておいた｡
これも終わったとなると私は暇人で
あと窓閉めくらいしかすることないけど
蒸し暑いから窓はまだ閉めたくない｡
いっちの方に寄ってって日誌をのぞく｡
『いっち』
「なに」
『感想いっぱい書いてるの?』
「もう書くことないんだけど」
『2行書いたならいいんじゃない』
「でも7行ぜんぶ書きたい」
『真面目ちゃんだな〜』
私は一緒にいたいからいいけど｡
『ん?』
彼の消しゴムに黒の線がちらつく｡
消しゴムに好きな人の名前を書いて
使いきると叶うってのが流行ったな｡
もうそれかなり昔のことだと思うけど｡
『?消しゴムなんか書いてあるの』
「えっあっ､ちょっ」
ひょいっとそれを取るといっちは
焦ったように私へ手を伸ばした｡
隠されたらもっと気になっちゃうでしょ｡
「返して､っほら」
『そう言われると気になるよね』
だって好きなんだもん気になる｡
いっちから逃げつつ消しゴムを見る｡
ケースから消しゴムを引き抜くと同時に
ドンッ！と耳のすぐ横で音がした｡
『え､ぇっ』
「それだぁめ…返して､はやく」
『う…うぅ』
目の前にいっち｡後ろにドア｡
お互いの吐息が交じるほど近い距離に
頭のなかが消しゴムみたく真っ白になった｡
『ど…どーぞ』
「ん､ありがと」
逃げ場がないため仕方なく彼に返す｡
ちらりと見た消しゴムは白くて
黒の線はただの汚れだったらしい｡
残念に思う反面ほっとする私もいた｡
『い､いっち放れるべし』
「そんな反応されるとねぇ」
『セクハラだよ』
「消しゴム取るほーが悪いでしょ」
目が見れない｡顔が熱い｡溶けちゃいそう｡
さっきまで聞こえてた運動部の大きな声が
ぜんぶ消えたかのように聞こえなくなった｡
代わりに心臓の音が耳元で響く｡
『…いっちは好きな子いないの』
「ひひっ､どうでしょうねぇ」
『もしかして男？！』
「そうかもね」
『えぇ〜』
「アンタが気にすることじゃないよ」
ぽんぽんっと優しく頭を撫でて
座ってた椅子に戻るいっち｡
『…つまんないの』
「すみませんねぇゴミクズで」
『ねーいっち帰りパピコ奢ってー』
「葡萄ならいいよ」
『えー珈琲のがいい』
「ふひっ､わがまま」
ほんとは､
彼の持つ消しゴムのケースの内側に
私の名前が書いてあったんだけど
まだ､この時の私はそれを知らない｡
…
*幼馴染みいっちと両片想い*
ちょこちゃん
誕生日おめでとうございました！
遅くなっちゃってごめんね( ´;ω;` )
精一杯書いたので受け取ってください｡
いつも仲良くしてくれてありがとう！
素敵な1年をお過ごしくださいね｡
黒糖団子
…
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松野 - 四男きみは、天使か何かですか？ (2016年9月20日 21時) (
レス) id: 76e115ffd1 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖団子(プロフ) - ユノさん» ひゃー！ユノさんありがとうございます( `･ω･´ )四男かわいいんですよ…｡時間があるときになってしまいますが続き書きますね！書けたらURL載せるのでぜひぜひ！ (2016年8月28日 2時) (レス) id: 75481162f8 (このIDを非表示/違反報告)
ユノ - すごくドキドキしました！一松と夢主ちゃんが可愛すぎる！よろしければ続編も書いてほしいです！ (2016年7月28日 19時) (レス) id: f5be42e0f7 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖団子(プロフ) - 御意サンさんこんにちはー！コメントありがとうございます( `･ω･´ )好みの作品だったようで､きゅんきゅんしていただけて嬉しいです！気が合うのかも知れませんね( (2016年7月25日 21時) (レス) id: 75481162f8 (このIDを非表示/違反報告)
御意さん - こんにちは！御意(ぎょい)サンって言います。すっごく面白いです！なんというか私好みの作品です！はあああああ…キュンっキュンします！ (2016年7月21日 13時) (レス) id: 36a26ffa25 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒糖団子
| 作成日時：2016年7月18日 16時
