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これは、私が高校生の時の話なんですけど、
その時私、コンビニで売ってるアイスにハマってたんですね。パルムとか、パピコとか。
で、本当はいけなかったんでしょうけど、学校帰りにローソンに寄って、そういうアイス類とジュースを買って、いつも家に帰って食べてたんですよ。
歩き食べしなかったのは、教師の見回りが怖くて。自宅から学校は結構遠いんですけどね、悪いことしてる自覚はあったから、内心びくびくしてたんでしょうね。
それで、その日も、スクールバックにアイスとサイダー入れて、コンビニを出て歩いていました。
ああ寒いなぁとか、明日の部活だるい、とか、そんな取り止めもないこと考えて。
コンビニとマンションの角を曲がると、ずうっと奥に長いような道に出るんです。
途中に何本か脇道があって、道中に、どっかのアパートに生えてるツタみたいな、そんなような草が道にせり出てるような、そんな道で。
道の行き止まりは自転車屋で、そこのおじさんは子供の頃によくお菓子をくれました。
曲がってすぐに、その自転車屋の後ろから、やけに大きい夕陽が顔を出しているのが目に入って、別に足を止めるわけでもないけど「あ、きれいだな」なんて思いました。
ふと見ると、前から歩いてくる人がいました。
でも、何か違和感があって。
変に顔が白く見えたんです。
最初は、白い帽子をかぶっているのかな、と思いました。
ほら、野球帽みたいな、前につばがあるやつって、下を向くと顔が結構隠れるじゃないですか。それかな、と思ったんです。
それに、何だかその人は、背格好からしておじさんだろうと思ったんですけど、
歩きながら、両手を頭の横に持ってきて、
それを、左右交互にちょっと前に出す、みたいに動かしてたんです。
伝わりますかね。
私は、帽子をずらしているのかな、と思いました。
帽子をかぶっていると、髪の毛が捩れてたり、つばの付け根の位置がやけに下だったり、とか、
どうも収まりが悪い、なんてことがあるじゃないですか。
それを、直そうとしてるんだと思って。
でも、私とその人が一歩ずつ、近づいていくうちに、
そのどちらも正しくはないな、って、わかったんです。
目を凝らすと、その人は帽子なんかかぶって居ませんでした。
代わりに、ひょっとこのお面を被っていたんです。
ほら、伝統工芸品っぽいような、お祭りでたまに売ってるみたいな、
唇をぐにぃって、顔の横に窄めている、あの顔です。
そして、そのおじさんは帽子をずらしているんじゃなくて、
そのお面を、外そうとしていたんです。
ぎぃ、ぐいぃって、顔に被さった御面を、両手で引っ張って。
なんだかとても不気味に思えて、このままだとその人と真正面からすれ違うことになるから、
私は、その道の左右反対の脇に行こうと思って、道を横断しました。
右斜め前にいるそのひょっとこの人とすれ違うとき、「目を合わせちゃダメだ」って感じて、
でもお面の下の目は見えないから、お面の覗き穴があるであろう場所から、必死になって目を逸らして。
ぎゅってバッグの肩掛け紐を掴んで、俯いて歩きました。
アスファルトが、すっごく早く流れてるみたいな気持ちになったのを覚えています。
そのまま数十歩くらい歩いて、しばらくして、もう流石にあの人も曲がり角を曲がった頃かな、って思って、
今更ながら、何であんなの怖がったんだろうって、少しバカらしくなったんです。
そこらへんのおじさんがふざけてお面を被ってただけじゃないのか、とか考えて。
それで、何だか無性に恥ずかしいような気持ちになって、もう一度あの人を落ち着いて見てみよう、なんて思い、
後ろを振り返ってみたんです。
いませんでした。
後ろには、いませんでした。
あれ、と思って、後ろから視線を戻して、
前を向く途中で、胃に氷を押し当てられたような感覚になりました。
居ました。
道路を挟んだ、真横に、ひょっとこのお面をかぶったその人が、こっちを向いて立ってました。
ひっ、って、息を吸い込んだ音が自分の喉から出て。
真ん中を黒く塗りつぶした二重丸みたいな目が、こっちを見ていました。
だって、おかしいじゃないですか。
私とあの人は、ついさっきすれ違ったばっかりなんですよ。
それなのに、まだ私の真横にいるってことは、
すれ違ったあと、わざわざ引き返して、私を追いかけてきていて、
私が止まったら、その人も一緒に立ち止まって、こっちを見ていたって、
そういうことじゃないですか。
やば、って、頭の中で思うか、言ったかして、
「帰らなきゃ」「逃げなきゃ」って今更感じて。
走り出しました。
無性に怖くて、会っちゃいけない者と会っちゃった気がして、
もう、なんなの、って呟いて、
ぼろぼろ、無様に涙まで溢れてきました。
学校指定のローファーは入学から卒業までついに苦手なままで、とっても走りにくかったし、
カバンの中のサイダーがちゃぷちゃぷ音を立てていたけど、
それより今は一刻も早くこの場から逃げ出したくて、その一心で、腕も足もめちゃくちゃに振り出してました。
冷たい風が指先やら頬やらに当たる中で、
後ろから、確かに声が聞こえました。
それは、暗い話題になった時に、場を明るくしようとして出すような、
何だか無理やり面白く、明るくしようとしているような、
ねとっとした笑いが語尾に含まった、不快な声でした。
あ あ あのお
くっついて しがみついちゃったんですよねえ
ひふが こびりついちゃったみたいでえ
出鱈目につけたような抑揚が、肌にまとわりつくようで、
咄嗟に両手で、耳を塞ぎました。
そのまま、さっきの言葉の意味を考えないように、
冷たい空気をひたすらに吸って、走り続けました。
家に着いた頃には、サイダーの炭酸は完全に抜けていて、
アイスは柔らかくなっていました。
あれがなんだったのか、私は何を見たのか、今となっては何もわかりませんが、
私はあれを、出来る限り忘れないようにしたいと思っています。
……これは、あれとは何の関係もないのですが、
あの、ひょっとこの人の着ていたジャージは、
あの道の突き当たりの、自転車屋さんのおじさんが着ていたものと、瓜二つでした。
その1週間後、色とりどりの自転車も、レジの奥に置いてあったキャンディの壺も無くなった、空虚なお店を見て、
私はなんだか無性に、やるせないような、物悲しいような気持ちになりました。
(終)
この物語はフィクションです。
実際の人物・団体には全く関係はございません。
これは、私が高校生の時の話なんですけど、
その時私、コンビニで売ってるアイスにハマってたんですね。パルムとか、パピコとか。
で、本当はいけなかったんでしょうけど、学校帰りにローソンに寄って、そういうアイス類とジュースを買って、いつも家に帰って食べてたんですよ。
歩き食べしなかったのは、教師の見回りが怖くて。自宅から学校は結構遠いんですけどね、悪いことしてる自覚はあったから、内心びくびくしてたんでしょうね。
それで、その日も、スクールバックにアイスとサイダー入れて、コンビニを出て歩いていました。
ああ寒いなぁとか、明日の部活だるい、とか、そんな取り止めもないこと考えて。
コンビニとマンションの角を曲がると、ずうっと奥に長いような道に出るんです。
途中に何本か脇道があって、道中に、どっかのアパートに生えてるツタみたいな、そんなような草が道にせり出てるような、そんな道で。
道の行き止まりは自転車屋で、そこのおじさんは子供の頃によくお菓子をくれました。
曲がってすぐに、その自転車屋の後ろから、やけに大きい夕陽が顔を出しているのが目に入って、別に足を止めるわけでもないけど「あ、きれいだな」なんて思いました。
ふと見ると、前から歩いてくる人がいました。
でも、何か違和感があって。
変に顔が白く見えたんです。
最初は、白い帽子をかぶっているのかな、と思いました。
ほら、野球帽みたいな、前につばがあるやつって、下を向くと顔が結構隠れるじゃないですか。それかな、と思ったんです。
それに、何だかその人は、背格好からしておじさんだろうと思ったんですけど、
歩きながら、両手を頭の横に持ってきて、
それを、左右交互にちょっと前に出す、みたいに動かしてたんです。
伝わりますかね。
私は、帽子をずらしているのかな、と思いました。
帽子をかぶっていると、髪の毛が捩れてたり、つばの付け根の位置がやけに下だったり、とか、
どうも収まりが悪い、なんてことがあるじゃないですか。
それを、直そうとしてるんだと思って。
でも、私とその人が一歩ずつ、近づいていくうちに、
そのどちらも正しくはないな、って、わかったんです。
目を凝らすと、その人は帽子なんかかぶって居ませんでした。
代わりに、ひょっとこのお面を被っていたんです。
ほら、伝統工芸品っぽいような、お祭りでたまに売ってるみたいな、
唇をぐにぃって、顔の横に窄めている、あの顔です。
そして、そのおじさんは帽子をずらしているんじゃなくて、
そのお面を、外そうとしていたんです。
ぎぃ、ぐいぃって、顔に被さった御面を、両手で引っ張って。
なんだかとても不気味に思えて、このままだとその人と真正面からすれ違うことになるから、
私は、その道の左右反対の脇に行こうと思って、道を横断しました。
右斜め前にいるそのひょっとこの人とすれ違うとき、「目を合わせちゃダメだ」って感じて、
でもお面の下の目は見えないから、お面の覗き穴があるであろう場所から、必死になって目を逸らして。
ぎゅってバッグの肩掛け紐を掴んで、俯いて歩きました。
アスファルトが、すっごく早く流れてるみたいな気持ちになったのを覚えています。
そのまま数十歩くらい歩いて、しばらくして、もう流石にあの人も曲がり角を曲がった頃かな、って思って、
今更ながら、何であんなの怖がったんだろうって、少しバカらしくなったんです。
そこらへんのおじさんがふざけてお面を被ってただけじゃないのか、とか考えて。
それで、何だか無性に恥ずかしいような気持ちになって、もう一度あの人を落ち着いて見てみよう、なんて思い、
後ろを振り返ってみたんです。
いませんでした。
後ろには、いませんでした。
あれ、と思って、後ろから視線を戻して、
前を向く途中で、胃に氷を押し当てられたような感覚になりました。
居ました。
道路を挟んだ、真横に、ひょっとこのお面をかぶったその人が、こっちを向いて立ってました。
ひっ、って、息を吸い込んだ音が自分の喉から出て。
真ん中を黒く塗りつぶした二重丸みたいな目が、こっちを見ていました。
だって、おかしいじゃないですか。
私とあの人は、ついさっきすれ違ったばっかりなんですよ。
それなのに、まだ私の真横にいるってことは、
すれ違ったあと、わざわざ引き返して、私を追いかけてきていて、
私が止まったら、その人も一緒に立ち止まって、こっちを見ていたって、
そういうことじゃないですか。
やば、って、頭の中で思うか、言ったかして、
「帰らなきゃ」「逃げなきゃ」って今更感じて。
走り出しました。
無性に怖くて、会っちゃいけない者と会っちゃった気がして、
もう、なんなの、って呟いて、
ぼろぼろ、無様に涙まで溢れてきました。
学校指定のローファーは入学から卒業までついに苦手なままで、とっても走りにくかったし、
カバンの中のサイダーがちゃぷちゃぷ音を立てていたけど、
それより今は一刻も早くこの場から逃げ出したくて、その一心で、腕も足もめちゃくちゃに振り出してました。
冷たい風が指先やら頬やらに当たる中で、
後ろから、確かに声が聞こえました。
それは、暗い話題になった時に、場を明るくしようとして出すような、
何だか無理やり面白く、明るくしようとしているような、
ねとっとした笑いが語尾に含まった、不快な声でした。
あ あ あのお
くっついて しがみついちゃったんですよねえ
ひふが こびりついちゃったみたいでえ
出鱈目につけたような抑揚が、肌にまとわりつくようで、
咄嗟に両手で、耳を塞ぎました。
そのまま、さっきの言葉の意味を考えないように、
冷たい空気をひたすらに吸って、走り続けました。
家に着いた頃には、サイダーの炭酸は完全に抜けていて、
アイスは柔らかくなっていました。
あれがなんだったのか、私は何を見たのか、今となっては何もわかりませんが、
私はあれを、出来る限り忘れないようにしたいと思っています。
……これは、あれとは何の関係もないのですが、
あの、ひょっとこの人の着ていたジャージは、
あの道の突き当たりの、自転車屋さんのおじさんが着ていたものと、瓜二つでした。
その1週間後、色とりどりの自転車も、レジの奥に置いてあったキャンディの壺も無くなった、空虚なお店を見て、
私はなんだか無性に、やるせないような、物悲しいような気持ちになりました。
(終)
この物語はフィクションです。
実際の人物・団体には全く関係はございません。
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レベ - 怖いです…自転車屋のおじさんが…もしかして…作者さんを追いかけていたのかもしれませんね… (2023年2月6日 17時) (レス) id: ea3111d08d (このIDを非表示/違反報告)
真夏くん - 怖いですね、、、、、、、、自転車屋さんのおじさんどうしたんでしょうか?夜に読んでるので怖さが倍です、、、、、、、、 (2023年1月29日 2時) (レス) id: f7e7ccfad1 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2023年1月27日 21時