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私――宝生 玲奈は上機嫌だった。それもそのはず、彼氏がうちへとくるのだから。でも、親に見つかるのは厳禁。茶化されてにやにやした顔で笑って、そんなの御免だ。朝ごはんの時何となくそわそわしていたら、「何やってんだ」とお兄ちゃんが私を変なものを見るような目で見て、言った。
「今の顔、すっげぇ気持ち悪いぞ。鼻の下伸ばして、中年男性か」
「うるっさいな!」
若い女学生捕まえて中年男性なんて、失礼極まりない。ふい、と顔を逸らせば、兄はそのあと何も言ってくる気配はなかった。
「インターホンは押さないでね」と言った通り、彼は指定された時間に家の扉を三回ノックした。すでに待機していた私はいそいそと扉を開ける。
「いらっしゃい!」
ぱ、と笑みを浮かべて彼を歓迎すると、「お迎えどうも」と微笑んでくれた。
階堂 修也。成績優秀、容姿端麗。きちんとした格好をした彼は育ちの良さを思わせる。人当たりがよく頼りになり、その上私のことをよく気にかけてくれるという、自慢の彼氏。
「遠かったでしょ?」
「いいや、そうでもない。あ、これお土産」
「そんなのいいのに」
す、と差し出されたお洒落な袋に入った箱。でも、家族には見られたくないし、彼に貰ったと言いたくもないしどうしようか。そう考えていると、背後から声がかかった。
「あら、玲奈!」
ぎくり、とした。ぎぎぎ、と機械の動くように後方を振り返る。母親だ。どうして女親というのはこういうのに目敏いのか。
「お友達?それとも……、彼氏とかだったり?」
「あ、はい。階堂 修也といいます」
「あらぁ!しっかりしてるわね〜!」
その大袈裟なリアクションを本当に止めて欲しい。うんざりしながら母親に彼から貰った箱を押しつけて、「早く行ってよ」と部屋に戻るように促す。「そうよねぇ、お邪魔したら悪いわよねぇ」なんて言いながら、またにやついた顔をこちらに向けてくる。
「じゃあお母さん、後でジュースとか持っていくから」
「そういうのいいって、もう」
「いいのよ、遠慮しなくて」
「遠慮なんてものじゃないのに」。その言葉は無理矢理に飲み込む。どこか嬉しそうに去っていく母親に深い溜息を吐いていれば、「明るいお母さんだね」と彼が笑った。
「修也くん、ご飯食べてく?」
その悪魔の一言で、彼は夜ご飯を食べていくことになった。勿論彼は渋っていたけれど、あの母親が聞くわけがない。二人だけで、となれば嬉しいけれど、家族での食事は正直楽しくは無い。
「これ、美味しいですね」
修也くんがにこやかに笑う。その姿も様になっているのだから、お母さんの機嫌がいいったらない。
「そう?そうかしら?」
お母さんの彼氏じゃないんだよ、と思いながらご飯に箸をつける。ふと視線を上げれば、嫌らしく笑った兄の顔。
「……なにその顔、すっごく気持ち悪い」
「はぁん、お前の朝機嫌が良かったのって」
「中年男性みたい!」
カッとなって叫べば、修也くんが驚いた表情でこちらを見る。兄はにやにやを崩さず、その隣で父は苦笑いし、母は「どうしたのよ」と口をはさむ。居心地が悪いことこの上ない。
う、と小さくなっていると隣から声がかかった。
「玲奈」
修也くんの、声。
「これ、うめぇよ」
おかずを指差して、にこりと微笑む。その姿に、涙腺が緩んだ。
「た、たべるぅ」
「うん」
柔らかく頷いた彼が頭なんて撫でるから、私は涙をぼろぼろ流しながら食事を再開した。
「じゃあ、帰るね」
家の前。彼が手を振る。私は涙苦笑いしてそれに応えた。
「ごめんね、はしたないとこ見せた」
「いいよ。また近いうちにご飯食べに来るから」
「やめてよぉ、恥ずかしい」
「はは」
その笑顔にまた涙が出そうになる。
「それじゃ、また」
「うん、また」
手を振って帰っていく。私は涙それを穏やかな気持ちで見送った。
二階にある自室。布団の上でごろごろと転がって今日のことを思い出す。母親の介入に兄のからかい。嫌な事もあったけど、彼がそれを一瞬にして拭い去ってくれた。
「……また、ご飯食べに来るからね」
その刹那、きん、と耳鳴りがした気がした。いや、違う。耳鳴りでは無い。
甲高い、「悲鳴」。
「……何?」
びくり、大袈裟に肩が跳ねる。何?何?何があった?
怖くなって足が震えて、それでも何があったのか気になって。
「……下、見に行こう」
とんとん、階段をゆっくりと降りていく。一階に降り立った時、ぐちゃり、と音がした。リビングの、向こう側で。
ぐちゃり、ぬちゃり、ぐちゅ。
ガラス越しに見えた赤黒いもの、鼻をかすめる鉄のにおい。凄く、凄く気持ちが悪くて、吐き気がしそうで。
だけど現実を受け止めるために、私は扉を開けたのだった。
「……これ、うめぇよ。
玲奈」
「今の顔、すっげぇ気持ち悪いぞ。鼻の下伸ばして、中年男性か」
「うるっさいな!」
若い女学生捕まえて中年男性なんて、失礼極まりない。ふい、と顔を逸らせば、兄はそのあと何も言ってくる気配はなかった。
「インターホンは押さないでね」と言った通り、彼は指定された時間に家の扉を三回ノックした。すでに待機していた私はいそいそと扉を開ける。
「いらっしゃい!」
ぱ、と笑みを浮かべて彼を歓迎すると、「お迎えどうも」と微笑んでくれた。
階堂 修也。成績優秀、容姿端麗。きちんとした格好をした彼は育ちの良さを思わせる。人当たりがよく頼りになり、その上私のことをよく気にかけてくれるという、自慢の彼氏。
「遠かったでしょ?」
「いいや、そうでもない。あ、これお土産」
「そんなのいいのに」
す、と差し出されたお洒落な袋に入った箱。でも、家族には見られたくないし、彼に貰ったと言いたくもないしどうしようか。そう考えていると、背後から声がかかった。
「あら、玲奈!」
ぎくり、とした。ぎぎぎ、と機械の動くように後方を振り返る。母親だ。どうして女親というのはこういうのに目敏いのか。
「お友達?それとも……、彼氏とかだったり?」
「あ、はい。階堂 修也といいます」
「あらぁ!しっかりしてるわね〜!」
その大袈裟なリアクションを本当に止めて欲しい。うんざりしながら母親に彼から貰った箱を押しつけて、「早く行ってよ」と部屋に戻るように促す。「そうよねぇ、お邪魔したら悪いわよねぇ」なんて言いながら、またにやついた顔をこちらに向けてくる。
「じゃあお母さん、後でジュースとか持っていくから」
「そういうのいいって、もう」
「いいのよ、遠慮しなくて」
「遠慮なんてものじゃないのに」。その言葉は無理矢理に飲み込む。どこか嬉しそうに去っていく母親に深い溜息を吐いていれば、「明るいお母さんだね」と彼が笑った。
「修也くん、ご飯食べてく?」
その悪魔の一言で、彼は夜ご飯を食べていくことになった。勿論彼は渋っていたけれど、あの母親が聞くわけがない。二人だけで、となれば嬉しいけれど、家族での食事は正直楽しくは無い。
「これ、美味しいですね」
修也くんがにこやかに笑う。その姿も様になっているのだから、お母さんの機嫌がいいったらない。
「そう?そうかしら?」
お母さんの彼氏じゃないんだよ、と思いながらご飯に箸をつける。ふと視線を上げれば、嫌らしく笑った兄の顔。
「……なにその顔、すっごく気持ち悪い」
「はぁん、お前の朝機嫌が良かったのって」
「中年男性みたい!」
カッとなって叫べば、修也くんが驚いた表情でこちらを見る。兄はにやにやを崩さず、その隣で父は苦笑いし、母は「どうしたのよ」と口をはさむ。居心地が悪いことこの上ない。
う、と小さくなっていると隣から声がかかった。
「玲奈」
修也くんの、声。
「これ、うめぇよ」
おかずを指差して、にこりと微笑む。その姿に、涙腺が緩んだ。
「た、たべるぅ」
「うん」
柔らかく頷いた彼が頭なんて撫でるから、私は涙をぼろぼろ流しながら食事を再開した。
「じゃあ、帰るね」
家の前。彼が手を振る。私は涙苦笑いしてそれに応えた。
「ごめんね、はしたないとこ見せた」
「いいよ。また近いうちにご飯食べに来るから」
「やめてよぉ、恥ずかしい」
「はは」
その笑顔にまた涙が出そうになる。
「それじゃ、また」
「うん、また」
手を振って帰っていく。私は涙それを穏やかな気持ちで見送った。
二階にある自室。布団の上でごろごろと転がって今日のことを思い出す。母親の介入に兄のからかい。嫌な事もあったけど、彼がそれを一瞬にして拭い去ってくれた。
「……また、ご飯食べに来るからね」
その刹那、きん、と耳鳴りがした気がした。いや、違う。耳鳴りでは無い。
甲高い、「悲鳴」。
「……何?」
びくり、大袈裟に肩が跳ねる。何?何?何があった?
怖くなって足が震えて、それでも何があったのか気になって。
「……下、見に行こう」
とんとん、階段をゆっくりと降りていく。一階に降り立った時、ぐちゃり、と音がした。リビングの、向こう側で。
ぐちゃり、ぬちゃり、ぐちゅ。
ガラス越しに見えた赤黒いもの、鼻をかすめる鉄のにおい。凄く、凄く気持ちが悪くて、吐き気がしそうで。
だけど現実を受け止めるために、私は扉を開けたのだった。
「……これ、うめぇよ。
玲奈」
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らいむ - こ、怖い(;;) (2018年12月19日 17時) (レス) id: f03fc7a8af (このIDを非表示/違反報告)
山乙女 桜(プロフ) - 空弥@ロザリオさん» プロット書いてんのか‥‥‥‥偉いっすなぁ‥‥‥‥ (2018年12月10日 22時) (レス) id: c43285d175 (このIDを非表示/違反報告)
空弥@ロザリオ(プロフ) - 山乙女 桜さん» おお、桜ちゃんコメありがとう〜。銀魂は今プロット途中だから、今週中には書き上げまする (2018年12月10日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
山乙女 桜(プロフ) - 怖い‥‥‥‥( ; ; ) (2018年12月10日 19時) (レス) id: c43285d175 (このIDを非表示/違反報告)
空弥@ロザリオ(プロフ) - ホラーですものb夢小説なんて私には書けぬ〜www (2018年12月8日 14時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空弥 | 作成日時:2018年12月8日 11時