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今日は朝からしょうもないことで機嫌を
損ねた。頭が冷めた今だからしょうもないが
血が上って、私は生まれて初めて父親に殺意が湧いた。
いかんいかんとそれを忘れようと大学の課題を始めたが、どうにも手がつかない。
本当だったら学校に行って教授の話を聞いて、それでダンスを踊って学園祭の準備に精を
出したい。しかし世間とCOVID-19はそれを
許さない。
なんとか課題は終わらせたが夏の暑い日に
冷房の効かぬ部屋でやっていたので汗が
だくだく吹き出ている。今日は贅沢してやろうと思った。財布を除けば野口英世が一人だけ
所在なさげに鎮座していた。贅沢は仲間を
引き連れてからだと悟った。
冷蔵庫の中に置いてあった弁当を食べ、
軽くワークアウトをし、日焼け止めを塗った。いかなる手段を用いても日焼けはするのだが、せめてささやかな抵抗はしたい。そしてこの
日焼け止めが少し肌を白く魅せてくれる、
何故かは知らない。
少し経ってから化粧をした。たかだか化粧歴
4ヶ月のひよっこなのでネットで調べてやってみるが、どうしても劇団員みたいになって
しまう。何故なのか。2枚撮った自撮りを加工してから、私は外に出た。
やはり日差しが強すぎる、それ故に日傘は
この時期マストである。しかも家は国道に
面しており仕事で往来するトラックが耳障りである。私はそれを安物のヘッドホンで蓋をし、お気に入りのアイドル曲で満たすのであった。
銀行に立ち寄ると流石平日のお昼時、人は殆どいなかった。私は英世を5人呼び出すと残高を確認した。30万くらいであった。
贅沢をしようと言ってもどこで何をするまでは決まっていなかった。本当なら午後から図書館にでも行くつもりだったが、どうやらもう席はないらしい。
と、私は近所にカフェがあったことを思い
出した。イチゲンさんお断りといわんばかりに雰囲気が閉鎖されているが、スコーンとやらが気になっていたのである。私は早足で
向かった。店は休みであった。
仕方ない…と私はもう一つのカフェへ
向かった。そのカフェは7年は続いているで
あろうが立ち寄ったことは一度もなかった。
ネットで調べてみるも、どうにも行きたい気分にさせてくれないのである。
そこまであと数mというところで『営業中』とでかでか書かれたのぼりがみえた。さらに店の目の前に来ると石の壁に何枚もの張り紙が
なされていた。せっかくの壁が台無しだが、
店の生き残りのためなのかもしれない。実際、張り紙の内容はモーニングセットやランチの
時間帯の宣伝などであった。
店に入るともう何人かがいたようで、ガヤガヤとしていた。服装をみるに、向かいのルーム
デザイン会社の社員であろう。どうしていいかわからず狼狽していると、キッチンから男性が出てきた。年齢はわからない、今年50を迎えた父といい勝負、といったあたりであろうか。
人数の確認をされ、「どうぞ」とだけ言われたので一番近くの隅に座った。
どこからかスパイスの匂いがする。なるほど、まだランチタイムであったか。
英世を５人連れてきたはいいが、先を考えるとあまり豪遊もできない。メニューを見ると、
どうやらケーキは300円ほどで頂け、
アイスコーヒーもカフェの相場程度であろう。親に報告したら高額だと思われそうだが。
私は即決したのだが、どうしても声を出して
いいのか戸惑ってしまう。その時には朝ドラで聞いたセリフを心の中で唱えるのである。
『転ぶなら前に転んだ方がいい。』
「すいません。」と普段の声量で言うと、
今度は腰の曲がったお婆がお冷を持ってきた。私が注文を済ますとお婆は付いてた水気を
拭いて行った。「ありがとうございます」と
言ったその声は自分でも信じられないほどに
高かった。
私が水を注ぐ度氷がカラカラと音を立て、
注ぎ終わると仕事終わりのトラックが軽い地震を起こす。窓から見えるはテラス席。
ああ、これが夏なのか。
少し待っているとまたお婆がお盆を持っているのが見えた。私は咄嗟にスマホを置いた。
置かれたショコラケーキとアイスコーヒーを
一枚写真に納め実食した。
真ん中が括れたコップに入れられた
アイスコーヒーは想像の3倍近くの高さが
あった。当然美味であった。ガムシロップも
あったが、無糖で頂いた。
ショコラケーキはチョコチップが
散りばめられたものであって、皿には謎の
ホイップとチョコソースがあった。この謎の
装飾が、実は好みだったりする。クリームと
スポンジはふわふわ、チョコチップはさくさくしており、えも言えぬ幸福感がそこにあった。
お会計を済まそうと700円を握りカウンターへ向かった。お婆が来たので出したら50円玉が
帰ってきた。なんだか白昼夢のような
─本当にこんな店あるのかという店だった。
店を出ると夏至を過ぎた日が傾いており、夏風と石の壁はさもここが観光地かのように
思わせる。何処にも旅立てない今年の、たった一瞬の気分であった。
帰りは菅原道真公が祀られた神社に、
精神保健福祉士になる誓いをたて50円玉を
放り投げた。
神社からでる頃には夕方の太陽がジリジリと
頭皮を焼き、セミが子孫を残すために大合唱
しているのであった。
損ねた。頭が冷めた今だからしょうもないが
血が上って、私は生まれて初めて父親に殺意が湧いた。
いかんいかんとそれを忘れようと大学の課題を始めたが、どうにも手がつかない。
本当だったら学校に行って教授の話を聞いて、それでダンスを踊って学園祭の準備に精を
出したい。しかし世間とCOVID-19はそれを
許さない。
なんとか課題は終わらせたが夏の暑い日に
冷房の効かぬ部屋でやっていたので汗が
だくだく吹き出ている。今日は贅沢してやろうと思った。財布を除けば野口英世が一人だけ
所在なさげに鎮座していた。贅沢は仲間を
引き連れてからだと悟った。
冷蔵庫の中に置いてあった弁当を食べ、
軽くワークアウトをし、日焼け止めを塗った。いかなる手段を用いても日焼けはするのだが、せめてささやかな抵抗はしたい。そしてこの
日焼け止めが少し肌を白く魅せてくれる、
何故かは知らない。
少し経ってから化粧をした。たかだか化粧歴
4ヶ月のひよっこなのでネットで調べてやってみるが、どうしても劇団員みたいになって
しまう。何故なのか。2枚撮った自撮りを加工してから、私は外に出た。
やはり日差しが強すぎる、それ故に日傘は
この時期マストである。しかも家は国道に
面しており仕事で往来するトラックが耳障りである。私はそれを安物のヘッドホンで蓋をし、お気に入りのアイドル曲で満たすのであった。
銀行に立ち寄ると流石平日のお昼時、人は殆どいなかった。私は英世を5人呼び出すと残高を確認した。30万くらいであった。
贅沢をしようと言ってもどこで何をするまでは決まっていなかった。本当なら午後から図書館にでも行くつもりだったが、どうやらもう席はないらしい。
と、私は近所にカフェがあったことを思い
出した。イチゲンさんお断りといわんばかりに雰囲気が閉鎖されているが、スコーンとやらが気になっていたのである。私は早足で
向かった。店は休みであった。
仕方ない…と私はもう一つのカフェへ
向かった。そのカフェは7年は続いているで
あろうが立ち寄ったことは一度もなかった。
ネットで調べてみるも、どうにも行きたい気分にさせてくれないのである。
そこまであと数mというところで『営業中』とでかでか書かれたのぼりがみえた。さらに店の目の前に来ると石の壁に何枚もの張り紙が
なされていた。せっかくの壁が台無しだが、
店の生き残りのためなのかもしれない。実際、張り紙の内容はモーニングセットやランチの
時間帯の宣伝などであった。
店に入るともう何人かがいたようで、ガヤガヤとしていた。服装をみるに、向かいのルーム
デザイン会社の社員であろう。どうしていいかわからず狼狽していると、キッチンから男性が出てきた。年齢はわからない、今年50を迎えた父といい勝負、といったあたりであろうか。
人数の確認をされ、「どうぞ」とだけ言われたので一番近くの隅に座った。
どこからかスパイスの匂いがする。なるほど、まだランチタイムであったか。
英世を５人連れてきたはいいが、先を考えるとあまり豪遊もできない。メニューを見ると、
どうやらケーキは300円ほどで頂け、
アイスコーヒーもカフェの相場程度であろう。親に報告したら高額だと思われそうだが。
私は即決したのだが、どうしても声を出して
いいのか戸惑ってしまう。その時には朝ドラで聞いたセリフを心の中で唱えるのである。
『転ぶなら前に転んだ方がいい。』
「すいません。」と普段の声量で言うと、
今度は腰の曲がったお婆がお冷を持ってきた。私が注文を済ますとお婆は付いてた水気を
拭いて行った。「ありがとうございます」と
言ったその声は自分でも信じられないほどに
高かった。
私が水を注ぐ度氷がカラカラと音を立て、
注ぎ終わると仕事終わりのトラックが軽い地震を起こす。窓から見えるはテラス席。
ああ、これが夏なのか。
少し待っているとまたお婆がお盆を持っているのが見えた。私は咄嗟にスマホを置いた。
置かれたショコラケーキとアイスコーヒーを
一枚写真に納め実食した。
真ん中が括れたコップに入れられた
アイスコーヒーは想像の3倍近くの高さが
あった。当然美味であった。ガムシロップも
あったが、無糖で頂いた。
ショコラケーキはチョコチップが
散りばめられたものであって、皿には謎の
ホイップとチョコソースがあった。この謎の
装飾が、実は好みだったりする。クリームと
スポンジはふわふわ、チョコチップはさくさくしており、えも言えぬ幸福感がそこにあった。
お会計を済まそうと700円を握りカウンターへ向かった。お婆が来たので出したら50円玉が
帰ってきた。なんだか白昼夢のような
─本当にこんな店あるのかという店だった。
店を出ると夏至を過ぎた日が傾いており、夏風と石の壁はさもここが観光地かのように
思わせる。何処にも旅立てない今年の、たった一瞬の気分であった。
帰りは菅原道真公が祀られた神社に、
精神保健福祉士になる誓いをたて50円玉を
放り投げた。
神社からでる頃には夕方の太陽がジリジリと
頭皮を焼き、セミが子孫を残すために大合唱
しているのであった。
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作者名：86 | 作成日時：2020年8月5日 17時
