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初めまして。主に募集企画やオリジナルで活動している、サウスポー・キラーです。
 この小説はEntitle-エンタイトル-という小説の短編です。まだ出てきていないキャラクターや、園原慧斗の選手時代、初恋……。(詰め込みすぎとはいってはいけない)
 私自身は恋愛初心者で、甘甘だろうがシリアスだろうが恋愛小説は苦手ですが、十代の少年少年らしいストーリーを紡ぐことが出来たらいいな、と思っています。
 完結はしているのですが、文字を打つのが遅いので、更新は一日一回できればいいと思います。


こちらのイベントに参加させていただきました。


 一ノ瀬杏奈との出会いは、今から一年半前になる。

 その日、園原慧斗は、とある店に行く途中だった。慧斗の従兄弟・神宮光輝と、親友の染井好乃の営んでいる、小さな食堂だ。店主の神宮により、新メニューの試食係に任命されたのだ。彼曰く「好乃はなにを食わせても美味いしか言わん」とのことで、趣味が料理の慧斗に白羽の矢が立ったのである。
「好乃に付き合ってちゃ夏が始まる。甘いモン出すから早く来い!」──そう、電話口で言った神宮の剣幕、もとい、甘味に釣られて慧斗は動いた。

 揺れる電車のなかで、慧斗の眉間は深い谷間を作っていた。どこから湧いてくるのか、この時間はいつも、無数の人間がひしめきあっていた。所詮、自分もその一人だと分かっているが、気分が悪い。人の油や香水、煙草の臭いが混ざっていて不快だ。あと一駅、あと一駅だと心中で呟く。
 窓の外へ、慧斗は視線を向けた。東京のビル群が右から左へと流れていく。
 ──ふとそこで、自分の正面下にある横顔が、震えていることに気づいた。

(………ん?)
 エナメルバッグを抱えて縮こまる、野球帽を被った少女。普通に見ただけでは、可愛らしい顔立ちの男子にしか見えない。洞察力のある慧斗でも、一瞬男子に見えた程だ。唇を噛み、顔を青ざめさせているが、その原因は体調不良ではないようだ。
 慧斗の斜め前では、ハアハア言いながら不穏な動きをしている、中年の男がいる。
(………どう見たって)
 典型的な、痴漢の一幕である。
 しかし、堂々とそれを検挙するには、被害者である少女が不憫であるし、正直に云うと脂ぎった中年の手に触りたくない。どうしたものか、と思案していると、件の少女の顔がパッと上がった。二人の目が、ピタリと合った。

 ──少女の瞳は、「助けて」と云っているように見えて。


 気が付けば、慧斗は痴漢の足を踏み抜き、少女を抱き込んで体を反転させていた。何が起こったのか分からない様子で少女が目を瞬かせるが、どうしてこんなことをしているのか、慧斗にだってわからない。
 胸中の戸惑いを押し込めて、慧斗は頷いた。
「じっとしていて。次で降りよう」

 一瞬の間のあとに、少女は頷いた。かなり無理な体制だが、体が柔らかいようだ、苦しそうなそぶりはない。ふわりと香る甘い香りに、腰に回した手に力が入った。次の駅までの時間がやけに短く感じたが、それが何故なのか、この時の彼には分からなかった。

 胸中の戸惑いを押し込めて、慧斗は囁いた。
「じっとしていて。次で降りよう」
 一瞬の間のあとに、少女は頷いた。かなり無理な体制だが、体が柔らかいようだ、苦しそうなそぶりはない。ふわりと香る甘い香りに、腰に回した手に力が入った。次の駅までの時間がやけに短く感じたが、それが何故なのか、この時の彼には分からなかった。

 軋むような音とともに、電車がホームに滑り込む。中年の足をもう一度踏んでから、慧斗は少女を連れて颯爽と下車した。まだ震えている少女の手を取って、ホームに置かれているベンチに座らせた。

「飲み物、何が好き? はい、さーん、にー、」
「えっ、あ、オレンジジュースありますかっ?」
 自販機で自分用のココア(冷たい)と、お子様っぽいオレンジジュースのボタンを押す。ガタンと音をたてて落ちてきた缶を取って、オレンジを少女に放った。

 危なげなくキャッチした手は、左。
 左利きか、と小さく呟いて、慧斗もベンチに腰を下ろした。
「まあ、飲んだら?」
 ココアの缶を空けながらそう言うと、少女がバッと立ち上がった。ぴったり九〇度に腰を折って、頭を下げる。
「ありがとうございます! あなたは命の恩人です!!」
「大げさだよ。それより、えーっと、キミ。野球してるの?」

 顔を上げた少女が驚いたように慧斗を見た。同時に、肩に掛けられていたエナメルが揺れた。
 バッグの側面には、《Jonan Junior high school Baseball club(城南中学校野球部)》と印刷されている。
「えっ、え、何で知ってるんですか?」

 あ、この子、バカだ。
 そう思ったら、口からこぼれた。
「キミってバカだよね」
「なあっ!? 言うに事欠いて何という無礼っ!」
 想像以上に喧しい反応。これ以上騒がれると人目を引きそうなので、慧斗は袖を引いて、彼女を座らせた。

「いいから座って。城南中の左利き中学球児ちゃん」
 む、だかぬ、だかわからない呻きとともに、少女が座る。横から手を伸ばして、オレンジジュースの缶を開けてやった。

 面白いコ助けちゃった、と慧斗は少女を見る。帽子に隠れていたが、彼女は随分と可愛らしい顔立ちをしていた。黒目がちな瞳はぱっちりと開き、鼻や口は整っていて小ぶり。チワワかパピヨンを連想させる顔だ。うるさいけれど、可愛い後輩。騒がしいけれど、いつも人の中心にいる友達。きっと、そういう役回り(ポジション)だろう。

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作者名:サウスポー・キラー | 作成日時:2017年9月2日 20時

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