カラ松の二つの顔・前編【おそ松さん】

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:2,847 hit

どもー、青狸でございます！

すみません。
小説の方ですが、受験真っ盛りで全く更新出来ていません。
まじですみません！

なのでお詫びと言っては何ですが、支部に乗っけた小説をこちらの方でも公開したいと思います。
どうか、こちらの方で許してください！
それと、名前変化はないですし、オリキャラもいません。
良ければゆる～く見ていってください。

カラ松事変についての小説です。

こちらの小説は前後編分かれています。
一応前編だけでも完結していますが、後編とも繋がっているので是非見ていってください！

後編
↓↓
カラ松の二つの顔・後編【おそ松さん】

.

その日は、一松のエスパーニャンコ騒動があり、おそ松達はてんやわんやしていた。そしてその騒動も一段落付き、五人は居間でテレビを見たり、猫と戯れたりと各々くつろいでいたのだった。

時計の針が十を回った頃だったか、おそ松は玄関の扉が開く音を聞いた。こんな時間に一体誰だろうか？だいたいピンポンもなしに入る奴がいるか？なんて心の中で悪態をつきながら廊下へ出ると、そこにはカラ松がいた。

｢なんだよ、お前今までずっとどこ行ってたの？お兄ちゃん心配したんだからね｣

ちなみにこれは真っ赤な嘘だ。おそ松はあの電話以来、今までカラ松の事をすっかり忘れていたのだ。しかしそれを本人の前で言える理由もなく、息を吐くように嘘をついた。

笑顔でカラ松の元へと向かったおそ松だったがカラ松の全身を見た時、その衝撃的な姿に息を飲む。頭は包帯でグルグル巻きにされ、腕には三角巾、足にはギプスを嵌めて、カラ松が寄りかかるのは松葉杖。そして、その目はどこか不安そうに揺らいでいたのだ。

(なんでそんな姿になったんだ？誘拐されてそれっきりだから、チビ太か？)

おそ松は記憶を遡る。そしてある朧気な、微かに残る記憶にたどり着いた。確かあの日の夜は外が凄い騒がしくて、寝ぼけなまこにバットを投げつけたような、そんな感じのものだった。

(まさか、な。)

おそ松は何か嫌な予感がして、カラ松の名前を呼んだ。

｢お、おい、カラ松？｣

おそ松の呼びかけにやっと気づいたようで、カラ松は笑顔を浮かべた。その目からは揺らぎが無くなっていたが、おそ松の頭からはどうしてもあの揺らぎが離れることはなかった。

｢ああ、おそ松か。本当に申し訳ないんだが、手を貸してくれないか？お願いだ。なにぶんこのギルティボディでな｣

困ったように笑うカラ松を見て、おそ松はおかしいと思った。しかし何がおかしいのかは、うまく掴めなかった。

すると、カラ松の声を聞きつけたのか、弟達もぞろぞろと玄関にやって来た。そして、カラ松の姿を見て絶句した。

｢カラ松、それ、どうしたの？｣

チョロ松の声は僅かに震えている。その瞬間、僅かにカラ松の目が泳いだのをおそ松は見逃さなかった。

おそ松だっていつもはあんなんだが、六つ子の長男なのだ。兄弟の些細な仕草にも敏感に反応する。

｢ふっ、大した事はないさ。これは道路の真ん中にキュートな子猫ちゃんがいてな、大きな鉄の悪魔に殺されそうだったところを庇い、逆に俺が怪我をしてしまったんだ｣

いや、絶対嘘だ。

これは六つ子全員が思った。

実際、弟達はぼんやりとだが確かに覚えていたのだ。自分達がカラ松とチビ太に向けて鈍器を投げつけた事を。しかし彼らは投げたあとすぐに布団に戻ったので、その後あの鈍器がどうなったかは全く分からなかった。もしかしたら運悪く、どれかがカラ松に当たったのかもしれない。きっと、カラ松のことだから兄弟に罪悪感を感じさせない為とか何とか言って、黙っているのだろう。ただ、確信が持てない為、謝ろうにも謝れないのだ。

｢どうしたんだ？｣

カラ松は一向に何も話さない兄弟に眉を潜める。そして何かに気づいたのか、目に悲しげな色を浮かべて自力で家に入ろうとした。

それを止めたのはおそ松の手。そしておそ松は靴を履いてカラ松の隣に立った。きっとカラ松は弟達の前だから本心を言えないのだろう。そう踏んだおそ松は二人っきりになろうと考えたのだ。

｢ちょっとカラ松、今から居酒屋行かね？｣

｢はぁ！？｣

声をあげたのはカラ松だけではなかった。兄弟全員がおそ松の突飛な提案に驚く。しかしおそ松は問答無用とカラ松を引きずって外へ出て行った。玄関に残された弟達は呆然と立っていた。

｢親父！ビール二杯！｣

｢あいよ！｣

おそ松はビールを注文すると、隣で俯いて机を見つめるカラ松へと目を向けた。

｢まあ、元気出せよ。夕飯食べた？食べてないなら何か注文すれば？｣

｢いらない｣

優しい言葉をかけてやったのに、カラ松はまだ俯いたままだった。そんな姿におそ松は小さく息を吐いて、カラ松の肩に手を置く。

｢何があったのか言ってみ？｣

｢やだ｣

カラ松はまだ俯いている。全く世話のかかる弟だ、とおそ松は自分のことを棚に上げて苦笑いを浮かべた。

｢あのな、俺、お前の兄ちゃん。わかる？｣

カラ松は小さく頷く。

｢俺はお前の弟じゃないの。だからさ、お兄ちゃんしなくてもいいんだぜ？｣

それを聞いた途端、カラ松は大粒の涙を流し始めた。丁度いいタイミングでビールが来たので乾杯する。カラ松はビールを勢いよく飲むと、いつものキャラも忘れて、ポツポツと語り出した。

｢お、俺、寒かった。気づいたら海の上で、風が寒くて。チビ太が電話かけたら、おそ松は俺の事他人だって言うし、十四松はちゃんと、聞き取らないし、一松は、俺の事、『誰それ？』って……。なんで兄さんは俺のこと『他人』って言ったんだよ～っ！！｣

｢ああ、それね｣

おそ松が相づちを打つと、カラ松はおそ松をきっと睨む。

｢それね、じゃない！俺、もうショックだったんだからな！｣

｢いやぁ、あれはさ、チビ太からだったから冗談かと｣

｢本当に傷ついたんだぞ！……それに、俺、梨に、負けたし｣

段々声が小さくなっていき、カラ松はビールを一気に飲み終えると、机に突っ伏して泣き出した。おそ松はもう一杯ビールを頼んで、カラ松の背中を擦る。

すると、今度はいきなり体を起こして、おそ松に詰め寄る。おそ松は、情緒不安定か！というツッコミを心の中に押しとどめて次の言葉を待った。

｢大体なっ、兄さんがあれ以来俺のことすっかり忘れてた事くらいお見通しなんだよ！何が『心配してた』だよ！｣

まさかカラ松にバレていたとは思わず、おそ松は驚きに目を見張る。

｢悪い悪い。色々あってさ、まあこれでチャラにしようぜ｣

ヘラヘラ笑ってそう言うと、カラ松は相変わらずむすっとしたままだったが、納得したようだ。俺の弟、チョロい。おそ松はそう確信した。

追加のビールを手に取り、カラ松はまた話し始める。

｢まさか、梨に負けると思わなかった。あのチョロ松でさえ、俺の事忘れて、梨に夢中になって｣

｢お前、もうちょい主張すれば良かったんだよ。ずっと無言だったじゃん｣

｢だって、俺、皆のこと信じてたし。大体、俺が必死に叫んだって、どうせ来なかっただろ？｣

確かに反論は出来ず、おそ松は言葉に詰まる。

｢俺だって、俺だってさ、梨食べたかったのに～！！｣

それを聞いた瞬間、思わずおそ松は昭和的ノリでずっこけた。カラ松は、梨に負けて忘れ去られた事よりも、梨を食べれなかったことの方が悲しかったのだ。

｢今度、兄ちゃんが梨買ってきてやるから｣

そう言ってなだめれば、カラ松は涙でグチョグチョの顔で何度も頷いた。

それから沈黙が続く。カラ松はいつの間にか頼んでいた唐揚げをツマミにビールを煽っている。暫くして流石に沈黙に耐えきれなくなったおそ松は、本題を切り出した。

｢あのさ、その怪我なんでやったんだ？｣

カラ松はそれを聞いてキョトンとする。

｢……覚えて、ないのか？｣

カラ松のなんとも形容しがたい表情を見て、おそ松は納得した。やっぱりあれは夢ではなかったのだと。

｢あれ？夜騒いでたのって、お前とチビ太？もしかして、投げたやつ当たった？｣

おそ松がおずおずと言うと、カラ松は呆れ顔になる。

｢やっぱり寝ぼけてたのか。そうだよ。兄弟が投げたの全部、俺の頭にクリーンヒットさ｣

そう言ってカラ松は頭の包帯に手を当てる。

｢え？あれ全部？たしか、一松、石臼投げてたよな。もしかしてそれも？｣

｢ああ、バッチリここにな｣

ため息を吐いてビールを飲むカラ松の横で、おそ松は驚きを隠せない表情を浮かべる。まさかあれ全部が当たっているとは思ってもいなかったのだ。寝ぼけてたし。いくらなんでも奇跡過ぎるだろ。どんだけの強運、いや狂運なんだ。

｢あ、でもこの腕と足は違うぞ？これはあの後、チビ太に路上放置されて車に引かれた｣

｢おま、まじかよ。｣

あまりに不憫過ぎておそ松は言葉に詰まった。そしてカラ松に向かうと、手を合わせて何度も頭を下げて謝った。

｢カラ松、まじごめん！本当にごめん！あれはやり過ぎたわ！｣

必死に謝る兄の姿を見て、流石にカラ松も苦笑いを浮かべた。

｢もういいよ、兄さん。謝罪が聞けただけで十分だ｣

カラ松は涙を流しながらも、笑顔でそう言った。それでも気がすまなかったのか、おそ松はその後も何度も謝罪した。

おそ松の謝罪が一段落したころ、言いたいことは全部言ったとカラ松は言って笑った。しかし、おそ松は納得出来ないでいた。帰ってきた時のあの目は、あの揺らぐ瞳はただ事ではなかった。このままにしておいては駄目だと第六感が騒いでいたのだ。

｢あのさ、お前まだなんか隠してない？｣

｢いや、全部言い切ったぞ？｣

カラ松は笑顔でそう答えたが、それでもまだおそ松は納得できていなかった。きっとまだ何かあるはずなのだ。

｢なあ、絶対なんかあっただろ？俺に隠し事は通用しないぞ？何たってお前の兄ちゃんなんだからな！｣

｢俺の、兄さん。……本当に？｣

何故そんな事を聞くのか、おそ松にはよくわからなかったが、事実なので力強く頷いてやる。きっと、これがカラ松の迷いを消したのだろう。カラ松の顔から徐々に笑顔が消えていく。

｢俺、見たんだ。今日の夕方にさ、近くの公園を通ったんだ｣

確かその時はまだ、一松のエスパーニャンコ探ししてた時だな、とおそ松は記憶を辿る。

｢そこでさ、お前達が夕陽の向こうで一列に並んで幸せそうに笑ってるとこ。｣

｢……カラ松｣

おそ松は自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。見られていたのだ、あの光景を。当然兄弟からあんな目に合わされたカラ松が何を考えるかもわかっていた。

｢そこでさ、一松が幸せそうに笑ってたんだよ。あの一松が、だぜ？それに皆も幸せそうだった。……俺の入れる場所は何処にもなかった｣

｢カラ松｣

おそ松の脈拍はどんどん速くなっていく。もし自分がカラ松と同じ状況だったら、そう考えたら冷や汗が止まらなくなる。

｢どうして俺はこんな目にあって、あいつはあんなに幸せそう笑って、おかしくないか？｣

｢カラ松！｣

必死に止めようと名前を叫ぶおそ松だったが、それでもカラ松は止まらなかった。駄目だ、これ以上言わせちゃ駄目だ、駄目なのに。

｢俺、考えたんだ。

──どうして俺と一松で、あんなに扱いが違うんだよ！！｣

｢……はぁ？｣

あまりに想定外の言葉に、おそ松の口から気の抜けた声がでた。

｢おかしくないか！？俺は誘拐されたのに、なんで心配されないで、一松の猫が心配されてるんだよ！俺、梨に負けて猫にも負けて、一体何に勝てるんだよ！！｣

カラ松は再び机に突っ伏して、大声で泣き始める。その横でおそ松は力が抜けたようにぐったりしていた。

そっちに悲しんでいたのか。いや、確かにカラ松はこういう男だった。普通の人間と観点が違うのだ。心配して損したとは言って悪いが、本当に損した。

｢まあさ、一松はいつもああだし。猫の件は俺らが悪かったし。だからお前は猫に負けたって訳じゃないって｣

｢でも、扱いが｣

｢お前優しいだろ？それに甘えちゃってんのよ、あいつらも、俺もさ。だから泣くなって。お前は充分愛されてる。愛情の表現が普通とは違うだけだよ｣

おそ松の話をキョトンとして聞いていたカラ松だったが、分かりにくい！と再び大泣きし始めた。それでもその顔には笑顔が浮かんでいて、おそ松はほっと胸をなで下ろした。

それから暫く話したりふざけあいながら、小さな慰め会は朝まで続いた。

｢あ、俺財布忘れた｣

｢はぁ！？どういう事だよ、兄さん！俺、財布持ってないぞ？｣

｢カラ松の財布なら持ってるぜ｣

｢なんで持ってんだよ！お前元々払わせる気だったのか！ふざけんな！金返せ、おそ松！親指立てんな！！｣

しかし、おそ松は気づかなかったのだ。カラ松の瞳に始終苦悩の色が浮かんでいたことに。

ホムペを作る｜感想を書く
 他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って！｜面白い！→ )