目を覚ますとそこはベッドの上だった。頭には包帯が巻かれていた。
自分の名前も、ここがどこかも、どこから来たのかもわからない。
そんな中、【教会】なる組織？ に保護された。今日に至るまでリハビリと情報収集に努めてくれた。しかし
「あなたが記憶喪失であることは百も承知です。しかし、教会は肉体的に健康な無職者を養う事を許しません。そこで！ 教会が独自に育成しました勇者たちの監視役を担って欲しいのです。この仕事さえ引き受けてくれたら、衣食住はもちろん相場よりも高い報酬を払うと教会は約束しています。
引き受けてくださいますか？」
目の前の手当に徹してくれた若い牧師が心配そうに問いかける。
勇者というのは、噂話でしか聞いた事ないが、
魔物100体を1人で討伐したとか
貧民街の子供を虐殺したとか
街１つ氷漬けにしたとか
ロクな話を聞かない。
しかし自分は教会に恩がある。
記憶こそ戻ってないが、肉体は完全に完治した。精神的に異常もない。
彼の問いかけに首を縦に振った。
「分かりました。教会に伝えておきましょう。勇者たちは精神が不安定な個体が多いのです。あなたに執着したり危害を加える者もいるでしょう。どうか気をつけて」
6種類の結果パターン
こちら、本日の担当勇者です - 2025年7月9日
【自傷の勇者 ロクシス】
「はじめまして」
そう声をかけて来たのは、狼のような金色の瞳と黒髪ショートヘアの青年だった。
1番最初の勇者、と聞いたことがある。
たくさんの魔物を討伐し、たくさんの人を救ってきたまさに勇者。英雄。
「あなたの事なんて呼べば良いかな......YOU、さん？ え、呼び捨てでいいの？」
英雄と民に讃えられている人にさん付けで呼ばれるのは正直恐れ多い。
初めて会ったその日にした会話はこの挨拶くらいで、特に話はしなかった。
しかし観察すればするほど、ロクシスという勇者がいかに優れているか分かる。
魔物討伐では基本負けなし。負傷した兵何人も背負って、基地まで運んできた事もある。
民には気さくで、土木などの力仕事を進んで手伝い、自身の給料の半分を孤児院に寄付。それを誰かに言うような真似は一切しない。だから、子供たちの憧れ、大人たちの崇拝の対象になった。
そして自分と親しくなるのにも時間はかからなかった。
そんな彼と時間をかけて会話を重ねていくうちに、彼の違和感が目についた。
たまに表情が抜け落ちたようになくなる事。
常に手袋、長袖の服を着用している事。
睡眠薬をもらいに医療室を頻繁に訪れる事。
大丈夫？ そんな言葉がつい出てしまった。
それに対して彼は困ったように笑うと「大丈夫だよ」と、任務に戻って行った。
_____
ごめん、本当は大丈夫じゃない。あなたは俺をよく見ているから困る。
ナイフで自傷しまくった腕は見せられない。
無意識に噛みまくったボロボロの爪も見せられない。
薬を馬鹿みたいに何回も飲んで意識をとばしてる姿も見せられない。
この国の人たちから何度も【英雄】と呼ばれた。
その度に失敗したら、失望させたらどうしよう、とプレッシャーに押しつぶされそうになる。
他国の人たちから何度も【怪物】とよばれた。
許しを乞う人、幼い子供たち、その国の文化を敵として何回も切り捨てた。
眠ると何度も夢に見る。そして目覚めて薬に頼る。
顔に出ないようにしていたが、それをYOUさんに気づかれて大丈夫？ と心配された。
いやだ、あの人にこんな醜い姿見せたくない。
神様、今日も傷を刻みますから許してください。
腕から赤い血が流れる。自傷するたびに許されている気分になる。
YOUさん 初めて俺の異変に気付いた人。
俺をちゃんと見てくれた人。
あの人が望む勇者にならなければ。
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夏町 - カティーユさんがユノウさんのことを気に掛けているところとか二人の絆を感じられて好きです…！ギロアさんのゴシュジン呼びだったり、ロクシスさんだけ主呼びではないところも好きです。トナティカさんの浮世離れした感じと最後のセリフがどこか儚くて綺麗でした。 (7月27日 17時) (
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作者名：ルヴァンネ | 作成日時：2024年7月20日 12時
